韓国のリアルを知り、北海道の魅力を的確に伝えるために。「正しく理解しよう!韓国人インバウンド客事情」会場レポート

Date : 2020/02/12

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2019年7月からの日韓関係の悪化以降、一部のセンセーショナルな報道が影響し、韓国から北海道への観光客数は急減したとされています。しかし実際の温度感や、それでも日本に旅行に来る韓国人は何を求めているのでしょうか?

このセッションでは、韓国最大のDSP/DMP企業「Wider Planet Inc.」の日本支社代表・鳥井 武志さん、「大韓貿易投資振興公社(KOTRA) 」東京IT支援センター 副所長・直井 善郎さんにご登壇いただき、現在の韓国のリアルな姿や、効果的な訪日インバウンドマーケティングについてお話しいただきます。

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晩婚化、ひとり酒、シャイ・ジャパン…。いま、韓国で起こっていることとは



韓国の面積は北海道とほぼ同じですが、人口は10倍の約5200万人。また、GDPは日本の約1/3ですが、一人当たりの購買力平価GDPで比較するとわずかの違いしかありません。しかし、大企業と中小企業の平均年収の差が大きいことや、TOEICの平均点数が高いこと、財布を持たずに外出できるほどのキャッシュレス社会が実現していることなど、相違点も多く存在します。

直井さんは近年の韓国の社会情勢について、”スペック”、”晩婚化・少子化”、”PM2.5”、”ひとり○○”という4つのキーワードをピックアップしました。

“スペック”は、就職するにあたっての重要な要素である資格や経験のこと。学歴や職歴だけではなく、TOEICの点数や日本語・中国語などの語学力、海外経験やボランティア経験の有無を指します。また、初冬から春先にかけ ”PM2.5”による大気汚染の問題も深刻化しています。



韓国は日本よりも”晩婚化・少子化”が進んでいます。男性は徴兵制度で約2年間軍隊に入隊することや、近年の就職難で結婚に踏み切れないケースがあるようです。また、女性の社会進出が進むことで、実生活で仕事の優先度が高くなることから結婚が遅れているとされています。

「結婚年齢の平均で言えば、今では日本より男性で2歳弱、女性だと1歳弱、結婚年齢が高いという統計が出ています。また、出生率も日本は1.4を越えるくらいですが、韓国の場合は2016年から急激に落ち込んでいて、それまでは1.2くらいだったんですが、2019年には0.98まで下がってしまいました。ただ、今回のテーマであるインバウンドという視点でいうと、この状況って結婚や出産までの時間が長いということなので、旅行にいく機会は増えていくのかなと思います。」

さらに直井さんは、韓国ではいま「혼술(ホンスル)=ひとり酒」という言葉が流行語となっていることに触れました。

「韓国では一人で食事をする文化ってないんですよ。かわいそうとか、さびしい人だとか、そういうふうにとらえられるんですね。ところが、5年ほど前から『혼밥(ホンパ)=ひとりご飯』『혼술(ホンスル)=ひとり酒』という言葉が出てきて、今では一人焼肉店までできてしまいました。



では、最近の韓国国内の雰囲気はどのように変わったのでしょうか。直井さんは、インターネット上の変化と実生活の変化について、次のように指摘しました。

「Instagramに日本に旅行に行った写真をアップすると、『이 시국에(イシグゲ)=この時局に?』ってコメントが書かれるんですよ。『お前、こんな時に日本に行くのか』という感じの意味なんですが、これが韓国のネット上で流行っている言葉です。」

さらに、「눈치(ヌンチ)=空気を読む・気配を悟る」というキーワードだと思います。ネットの影響で、なんとなく日本のものは買ってはいけない、なんとなく日本に行かない、という雰囲気ができあがってしまい、残念なことですが日本が好きな人たちも「今の時期はないでしょ」という空気感になってしまったそうです。

「韓国の知り合いの話なんですが、ユニクロのオンラインショップで欲しい物があったんだけど品切れになっていた、と。でも実店舗に行くのはちょっと人目が気になるから、日本にいる妹に買ってこさせたらしいんです(笑)。『シャイ・ジャパン』という言葉もあるようで、彼らはネットにアップしたりしないだけで実際は日本製品を買ったり日本に旅行に行ったりしているようです。」

観光客はコンビニでビールを買ってホテルで飲んでいる!?札幌市が取りこぼしている訪日韓国人需要



鳥井さんによれば、韓国のホリデイシーズン「秋夕(チュソク)=旧暦のお盆」の旅行先人気ランキングでは、札幌は2018年に15位、2019年にはランク外という結果が出ています。2019年初頭からは韓国と同じく汁物料理が多い食文化をもつベトナムが新しい旅行先として注目されているそうです。

「私は、この状況でどうやったらもっと韓国の方に北海道へ来てもらえるのかなっていう視点で話していきたいなと思います。」

鳥井さんはまず、韓国人が日本に来てお金を使うスポットについて、次のように語ります。

「韓国には食中酒の文化があるので、お酒にはけっこうお金を使いますね。韓国って瓶ビールがほとんどなので、生ビールをたくさん飲める飲み放題は天国だって言っていました(笑)。あと、日本のほうが遊園地や水族館のクオリティが高いので、娯楽費も大きいですね。韓国はの冬はとても寒いんですけど雪がふらないので、雪質のいい北海道のスキー場は人気が高いです。」



新聞やニュースでは日本に来る韓国人観光客が大幅に減ったと報じられていますが、それは大手旅行会社調べによるツアーパッケージの統計だそうです。実際にはLCCを使った個別手配が8割以上を占めており、インターネットで情報を収集する方が多いようです。訪日韓国人観光客の70%が30歳以下の若者で、女性よりも男性の方が若干多いとのこと。

「メーカーさんがいらっしゃったらお伝えしたいんですが、お土産のパッケージは小さい方がいいです。皆さんLCCで移動するので、荷物を預けるとお金がかかっちゃうんですね。なので、ちっちゃな物をたくさん買うという傾向にあります。」

しかし鳥井さんは札幌の中心部を例に取り、韓国人の需要に応えられていない現状を指摘しました。

「韓国人は本当にお酒が好きで、4次会5次会が当たり前なんです。でも札幌の中心である狸小路4丁目の、ドン・キホーテの横にセブンイレブンがあるじゃないですか。札幌に来た韓国人って、みんなここでお酒を買い込んで、ホテルに帰って飲んでるんですよ。あの辺りにはベンチもないし、どこ行けばいいのかもわからないから。この課題に取り組んでいただいて、いかに彼らに楽しんでもらって、お金を使ってもらうかが非常に大事だなというふうに案じておりますね。」




最後に、今後の韓国に向けた北海道のインバウンド戦略として、5つの手がかりとなるトピックがあげられました。

1. 北海道に来たことのある韓国人に、道央・道東・道南・道北の各地の魅力を発信して、他エリアへの観光を促すこと
2. 2019年夏以降も人目を忍んで東京や大阪、福岡に来ている韓国人に、北海道の魅力を伝えること
3. スキー・スノーボードの経験がある韓国人に対して、北海道のパウダースノーの良さを伝えること
4. 富裕層に対して、高級なウニ丼や毛ガニなど、興味を持ってもらえる商品をアピールすること
5. 多くの韓国人観光客が利用しているとされるレンタカービジネスについて情報発信すること

これらに加えて鳥井さんは、訪日(来道)経験の有無と情報発信のタイミングを考慮し、どのような内容をどのようなメディアで伝えるかを工夫することが重要であると強調しました。

ニュースだけでは読み取ることができない韓国国内の雰囲気や、観光需要を掴むことにつながる本セッション。北海道が有する豊かな観光資源を、どのように発信し、いかにしてインバウンドにつなげるのかを考えるヒントになったのではないでしょうか。韓国だけでなく、他の国の観光客に向けて考える際にも参考になるカンファレンスでした。
 

執筆・写真撮影 谷 翔悟
1989年、北海道札幌市生まれ。東京と北海道を往復しながら、人と暮らしにフォーカスした映像やインタビューを制作する。
21世紀の北海道をアーカイブする音声コンテンツ「SUPER SAPPORO BROS」主宰。
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