未踏だョ!全員集合 ~突出した才能を持つITクリエータを、北海道はどのように活用・育成すべきか~ 会場レポート

Date : 2020/01/09

Shere :

このセッションは道内の企業と"未踏クリエータ"(独立行政法人情報処理推進機構が推進する、突き抜けた才能を持つ若いIT人材)がつながりを作り、新たな事業への展開に向けて議論をする目的で開催されました。

未踏(未踏IT人材発掘・育成事業)とは、いままで見たこともない「未踏的な」アイデア・技術を持つ「突出した人材」を発掘・育成する事業です。2000年より経済産業省と独立行政法人IPAが実施しており、25歳未満の天才的な個人が対象となる、若手ITクリエータの登竜門的なプロジェクトとなっています。産学のトップで活躍する方を、プロジェクトマネージャー(PM)として登用し、PM独自の観点からメンターとして育成する仕組みとなっています。

一般社団法人未踏の代表理事である竹内郁雄さんによる挨拶、「未踏クリエータとNoMapsは向いている方向が非常に似ており、また、親和性も高い。そして、未踏は人材にフォーカスするのに対し、NoMapsは”場”の創出をしている。未踏人材がNoMapsの場を通じてつながるだけでなく、事業化や起業のきっかけにもなることを望んでいます。」からスタートした本セッション。熱気あふれる4時間となりました。

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「未踏」って何だ?

前半は、未踏設立からこれまでの事業について語られました。これまでの採択者やPMの未踏に対する思いや、彼らがメンター的に未踏に関わる様子からは、縦や横に大きく繋がる未踏事業ならではの面白さがうかがえます。

竹内郁雄さん(以下、竹内):
未踏プロジェクトは、日本におけるPCソフトウェア産業の育成を目的としてスタートしました。当時の業界はアメリカに比べてプログラマー、エンジニアの圧倒的な数不足やスキルの不足など、人材に関する問題が大きかったのです。アメリカのIT業界の視察を経て、人材発掘・育成事業の礎となる「未踏ソフトウェア創造事業」が立ち上がりました。スローガンは「日本にもビルゲイツを!」でしたね(笑)



竹内:
未踏プロジェクトの特徴は、企業へのバラマキ補助金からの脱却をはかるため、個人あるいは少数グループを対象にしたり、成果の権利はクリエイターに帰属させること、報告書を重視せず成果物本位制で評価をすること、PM制度を導入するなどです。経費は全て人件費として支給し、事業に柔軟性をもたらすのも本プロジェクトの美点です。
 

2010年に未踏に採択された、メルペイ取締役CTOの曾川さん。
自分が今まさにやっていること・やりたいことは、未踏に採択された影響がとても大きかったと語ります。

曾川景介さん(以下、曾川):メルペイ取締役CTOの曾川と申します。これまでLINE Pay、メルペイなど「〇〇Pay」サービスを開発してきました。
payの原点はもっと人の価値の交換を簡単にして、なめらかな社会を作りたいと思ったのが発端です。未踏では「モノの貸し借りをするC2Cプラットフォーム」を提案しました。人と人がソーシャル上で物のやりとりができるCtoCのサービスにすごく興味がありました。ちょうど自分が未踏に採択されたころ、こういったソーシャルな業界に大量に資金が流れ込む時代でもありました。

曾川:学生時代はスパコンの研究をしていたんですが、ちょうどリーマンショックの時代で、リアルタイムで「2位じゃダメなんですか?」というのを経験していたのです(笑)科学技術予算が削られる一方で、スタートアップはものすごい勢いで資金調達しているのを見て、これからはこういうのものを求められるのではないかと思いました。


曾川:人はそれぞれ価値観が違い、異なる価値観が社会の流動性を生み、より豊かに発展していくと思っています。お金だけが価値観の基準ではないし、お金が理由であきらめなければいけないというようなことをなくしたい。メルペイで解決したい世の中の課題です。
 

2002年から2004年に渡って未踏採択された北海道大学大学院 情報科学研究院准教授の坂本さん。
自身の学生生活に大きな影響を与えた未踏事業を、現在では積極的に教え子に勧めています。

坂本大介さん(以下、坂本):未踏では、人のいる空間をセンサーが感知する、メディアアート的なものを作っていました。曾川さんと同じで、当時もぼくはなめらかなという言葉を使っていたのです。人と空間をどうなめらかに結びつけるか、連動させるかと。



坂本:未踏の期間だけでも、外に出て東京や他大学の学生や社会人と一緒に過ごせたのは本当に良い経験でした。田舎の学生の研究ってやはりどこか田舎っぽいというのが、今でもたまに議論に上がったりします。やはり、最先端の情報は自分で取りに行かねばならないねと。そういうところで未踏コミュニティの重要性を感じました。未踏は、応募することにまったくリスクを負わなくて済む。選ばれたら、研究に専念できる環境を獲得できる。手をあげない理由はないので、自分も今の学生に対して積極的に勧めています。
 

未踏事業が生み出すものとは

坂本:未踏での経験の中で、日本中のギラギラした同世代と議論ができるというのはすごく大きかった。未踏コミュニティの中にいることで様々なことが動いたりスタートしたりもする。未踏に採択されたことで、人生が大きく変わったと思います。だから学生にも勧めてる。未踏をやっていてよかったです。

竹内:未踏プロジェクトから輩出された人材は、修了後は企業、起業、アカデミアとそれぞれが同じ割合で進みます。とてもバランスがいいのです。また、未踏クリエータが企業したベンチャーの総評価額は5000億と試算されているんです。未踏は本当にものすごいプロジェクトだと自負しています。

未踏事業の意義についてを語り合った前半戦。続いてセミナー2では、「突出した才能を持つITクリエータを、北海道はどのように活用・育成すべきか?」というテーマでディスカッションが行われました。実社会において未踏事業をどのように生かせるかを、企業側の視点を交え考えます。

未踏事業に挑む若者を作り上げる環境とは?


中山昌洋さん(以下、中山):
自身の子育てを通して感じたことで、教育や育成に関して言えば、自分のこれまでの学習方法や経験、子育てを通して、「なに?なぜ?」を持つ子供っていうのはすごく未踏の本質に繋がるところがあると思います。自分は今、何のためにこれに取り組んでいるのか?ということが考えられるのは非常に重要なことだと思うので。

中島秀之さん(以下、中島):
僕は天邪鬼なので、やりたいことを子供に好きにさせて何か開花するものがあるか、と言ったらそうじゃないと言いたい。むしろ教育は型にはめることであって、好きなことをやらせるわけじゃない。例えばAIのディープラーニングの手法に、あえて敵を作って、その敵を打ち倒すように学習させていくやり方がありますが、その環境に似ている。子供があえてイノベーティブを作っていくように教育させるのが実は正しいのかなと思っています。


北海道では、坂本さんの出身校であるはこだて未来大を筆頭に、毎年コンスタントに未踏採択者を輩出しており、昨年は北大から2名の未踏クリエータが誕生しました。彼らに、この北海道で活躍してもらうにはどうすべきなのでしょうか。

未踏クリエータを受け入れ、生かす土壌づくり

中島:
「ITというものはこれまでになかった新しいサービスを作るわけだから、既存の企業に未踏クリエータのような人材が入ったところで彼らは仕事ができない。」という意見を以前うかがったことがあって、とても納得したんです。だから、彼ら自身が起業して自分たちのシステムを世に出していくような育成をしましょうと。確かにそうだなと思ったことがありました。

竹内:
「未踏的」な若い人を会社に入れて、育てるというのは、旧弊の体質の会社はダメなのです。育てられません。何が必要かというと、「未踏的人材」に理解を持って、彼らを泳がせることができる上司です。それができると、会社が面白くなっていくという実例を私は何個も見ています。

曾川:
たしかにそれも大事だと思うんですが「難しい課題」っていうのも大事だと思っています。富山さんとか対馬さんとか、自社の課題っていうのを外部にしっかりと発信されていて感じたことなんですが、未踏クリエータはもともと「難しい課題を解決する」ことがすごく好きなんです。それらを解決することで、社会にインパクトを与えたり会社をより良くしたい。わかりやすくミッションを外部に示せることは重要だと思います。

富山浩樹さん(以下、富山):
自社の場合ですと「店舗のデジタルトランスフォーメーション」のような課題があるんですが、こういった共通の課題やビジョンが共有できると、様々な部署の社員と未踏クリエイターのようなエンジニアとの協同は非常に面白いだろうなと思います。

対馬慶貞さん(以下、対馬):
そうなんですよね、未踏クリエータにはぜひ課題解決に関わって欲しいですし、具体的なプロジェクトを作っていけると思います。

企業内に未踏人材が入ることで生まれる相乗効果に期待の声が上がりつつも、話題は未踏クリエータと企業をマッチングさせることの難しさへと移ります。どうすれば企業と未踏人材を結びつけられるのでしょう?

未踏人材と企業をつなぐ人材の絶対的な必要性


坂本:
企業の中での協働っていうのは大変興味深くて、ただ一方で、未踏クリエータには「傘」となってくれる人が重要だと感じます。まさに先ほど竹内さんがおっしゃったような上司ですよね。そういう方がいれば、企業内でとても面白い効果が生まれると思います。それから、例えば中島先生のように未踏人材と企業を結んでくれるコーディネーターのような人が絶対に必要です。

中山:
サツドラさんとかコープさんのようにしっかりしているのに柔軟性のある企業はある種特殊ですよね。決断力もすごいですし。自社の場合、内装や施工をする職人がカスタマーと関わらないスタンスをとるっていうのは当たり前だと思っています。彼らは営業じゃなくて職人ですから。IT業界もものづくりの世界ですから、同様に考えると必ず間に入る人が必要ですよね。未踏クリエータはいわゆる職人と同義なので、未踏プロジェクトの中でコーディネーターを育成するという動きがあっても良いと思います。または、NoMapsがそういったプラットフォームになるのも良いと思います。

未踏クリエータにどう地方で活躍をしてもらうか?という問題に対して、NoMapsが解決のプラットフォームになるのではという提案がされ、客席を巻き込んで会場が一気に盛り上がりました!

“NoMaps”と未踏事業の相性から見る北海道の未来

北田静美さん(NoMaps事務局/株式会社ウエス):
まさに、昨年のNoMapsで未踏事業について知った後、これは絶対に色んな人に知ってもらいたいと思うと同時に、未踏を目指すような熱いパッションを持った人を北海道から輩出したいと思いました。北海道を、未踏クリエータが何かを始めやすい地域にしていけたらという思いがありますし、NoMapsがいい契機になると考えています。

宮永 真幸さん(札幌テレビ放送(株) 編成局アナウンス部担当部長 兼報道局解説委員):
未踏事業については、北田さんから聞くまで知らなかった。初めて知って、こんなにも魅力的なプロジェクトがあるのかと驚いたものです。特に地方の場合、メディアでもこのようなテック系の情報についてはあまり知らない人が多いと思います。プロジェクトにはメディアも巻き込むことが重要だと思いますから、NoMapsが非常にいいきっかけとなるでしょう。

伊藤博之(クリプトン・フューチャー・メディア株式会社代表取締役/NoMaps実行委員長):
札幌はオープン気質な街で、市民とかクリエイターの創造のために都市の中で余剰を使ってきた歴史のある街だと思います。そういう都市のアイデンティティを守っていきたいですし、未踏クリエータのような人たちがこの街の未来には必要だと思っています。そういう人たちが都市の余剰のなかでアイデアを実装させてみて、その結果が全国や世界に広がっていく、それがとても理想ですね。

取材を終えて

未踏事業について初めて知りましたが、こんなに面白いプロジェクトがあったとは…と感嘆しきりの4時間でした。地方で学ぶ際にネックになりがちな、研究の先端性や人脈の構築などの諸問題を一気に解決してくれる未踏事業は、まさに北海道の学生にとって非常に有益なプロジェクトであると感じます。そして北海道における未踏事業のベースとして、NoMapsとの連携が不可欠である!と会場は盛り上がり…面白いことが生まれそうな予感が会場いっぱいに溢れていました。きっと、この札幌で新しい動きが始まります。今後もお見逃しなく!

 

執筆・写真 足立 岬(札幌市立大学デザイン学部 人間空間コース4年生)