本セッションは、先日行われた“Nomaps NEDO Dream Pitch with 起業家万博” でNomaps賞を受賞した株式会社FP-MYS代表取締役の工藤祟さんによるプレゼンテーションと、株式会社ニューバランスでDTC&マーケティング ディレクターを務める鈴木健さん、カネボウ化粧品中根志功さんによる基調講演、またWeb広告研究会イノベーション委員会メンバーと札幌市立大学の学生による公開デザインワークショップからなるプログラムです。
セッションの詳細はこちら
基調講演を受けて、観光、交通、エンターテインメント、飲食、広告など業種・業態をチームごとに選び、北海道にイノベーションを起こす製品やサービスのアイデアを出し合いました。
レタプラは相続・贈与に関するプラットフォームとして機能し、「50歳から家族と相続の第一歩を考え始める」ためのサービスです。「元気なうちから相続の話を始めると、死んだ後のことを話すなんて!と拒否反応を示す人もいます」と工藤さん。しかし、死後の相続はネガティブな点も多いと語ります。「例えば家族がすでに独立しており、不動産や保険など、譲る際に一手間必要な資産のやり取りが不便」、「下手すると相続できない、不要だ、といった結果になりうる」など様々な不都合が生じることも。レタプラはその溝を埋め、「フラットな話し合いのきっかけ」として提案したいサービスなのだそう。
2015年、相続税の法改正により遺産にかかる基礎控除額が引き下げられました。2018年には認知症の方が有する資産が140兆円との報道もありました。工藤さんは「相続は多くの人に関わって来る問題ですし、例えば認知症になると資産を動かすことが難しくなります。本来、相続は早めに準備が必要になるものなのです。」と、生前からの準備の必要性を訴えます。
「レタプラは、相続の専門家が見込み客に対してアプローチするツールとしても使え、レタプラスペシャリストによる相続相談の気軽な窓口として使ってもらうこともできます。」と工藤さん。特に地方に多い、子世代・孫世代の相続需要を顕在化したり、地元の税理士には聞きづらい、といったニーズを解決するなどの見込みがあると考えています。そして北海道においては、特に第1次産業従事者の資産承継を対象とした業務を見込んで2020年には北海道版レタプラのローンチを目指します。
令和に入り、今後10年の多くの社会問題としてあげられるのは空き家問題、所有者不明の土地問題、一次産業の承継などです。そしてそもそも上記の問題点の多くは相続が起点となっている現状があります。工藤さんは「 ”死んだ時の話をするなんて” という風潮を変えたい」と語ります。「家族が元気なうちに話し合いをし、” 争続(あらそうぞく)” をなくしていきたい」。工藤さんの挑戦は続きます。
「ちょうどここにくる直前に台風19号がありました。で、この直前にグレタ・トゥーンベリさんが国連でスピーチをしましたね。かなり強い言い方を伴うスピーチで、話題になりました。」と最近のニュースを交えながら話す、株式会社ニューバランス DTC&マーケティング ディレクターの鈴木さん。
WeWork の元CEO、アダム・ニューマンのスピーチも引き合いに出し、「これから何かアクションを起こす時には、社会問題に対するアプローチや社会をどう変えたいかというビジョンがないとやっていけない、特に若い人たちはついてこない、といった雰囲気が社会に流れているのではないでしょうか」と訴えかけます。
「部分的な問題を解決するには全体的な問題を解決する必要があり、イノベーションが世界を変えるっていうことはそういうことだと思う。」と学生たちに語りかけます。
鈴木さんは、これからのテクノロジーやイノベーションに必要となるキーワードは「connected」「shared」「サービスモデル」だと言いました。これらのことは人間関係をあらためて考え直す機会でもあるし、人と社会を結び、新たな価値を作るということにもつながるように感じます。
「これからは総務省も主導している5Gの時代がきます。デジタルの技術により、物理的な距離を無効にするようなリアルの資源の活用可能性というのがあるはず。」と鈴木さん。
これらをふまえ、後ほど札幌市立大学の学生さんと一緒に「世界をどうイノベーションするか?」ということについて考え、ワークショップを行います。
カネボウグループ全体の化粧品ブランドの課題解決の仕事に取り組む中根さん。
中根さん達が作ったアプリ「smile connect」は、商品の購入履歴やパーソナルな美容情報を管理できるコンテンツです。
「アプリを作った理由は、初めて来られるお客さんが、たくさんあるブランドの中からカネボウを選ぶ理由のきっかけにしたいと思ったから」と語る中根さん。新規のお客様を惹きつけ、リピーターのお客様にも何かバリューを感じられる、ユニークなアプローチが必要だと考えていました。
今では高いアクティブユーザー数を誇り、カスタマーにとってなくてはならないアプリとなりましたが、ローンチ直後はBAさんたちからの反発がかなりあったそうです。しかしながら、これまでお客様へのアプローチといえばDMくらいしかありませんでしたが、アプリの登場によりこれが激変。「アプリだと、新規のお客様にもVIPのお客様にも変わらず同じアプローチができ、人数も比べ物にならない数でできます。実際、BAさんたちの中でもアプリがきっかけで来店されたお客様と接したりすることで、アプリの有用性を感じた方も多いと思います。」と嬉しそうに語る中根さん。
現在、このアプリはBAさんたちが積極的にお客様に勧めています。中根さんは、「デジタルだけでは届かない層へのアプローチができる。日頃関係性が築けているBAが勧めてくれる、ということで受け入れてくれるシニア層のお客様も多いんです。」と話します。確かに、100%デジタルではないことが、非常に有効で重要なポイントだと感じます。
本日の登壇者や客席に座っていた観客も巻き込み、みんなでグループをつくりました。模造紙に思いついたことをどんどん書き出す手法でアイデアを練りはじめます。
観光や雪の問題にフォーカスしたり、北海道の豊かな自然をいかしたり、札幌の都市構造から捉え直したりと、各自様々な視点から「ハッピーな札幌とは?」を考えています。普段から新しいアイデアやイノベーションに取り組む大人たちを圧倒するような学生たちの発想と勢いに、びっくり。
さすがデザイン学部ということもあり、学生はみんな良く手が動きます。そしてイラストが上手い、まとめるのも上手。一緒になって大人もノリノリになるチームや、考え込む大人を学生が引っ張っていくようなグループなど、取り組み方は多種多様。
それでも、順調にいくグループはなかなかありません。シンキングタイムも押しに押し、時間もギリギリになり慌ただしくまとめ始めます。最後は1グループ2分のプレゼンテーションで発表、各グループのアイデアをみんなで共有しました。
こちらのグループは北海道民向けの物産展の開催を提案。人の集まりと流れを生み、地域振興を狙う提案です。
「SHARE CITY」と題し、北海道の地域特性を生かし季節に応じてあちこちからの居住者を受け入れる街。花粉症の人を花粉のひどい時期だけ受け入れたり、寒くなったら自身が暖かいところへ移ったり、逆に積雪を体験したい人を受け入れたり、ライフスタイルにあった街へ移り住む多拠点居住の提案です。
持続可能な北海道を目指して、なんと全ての都市機能を地下に持っていくという驚きの提案も。地下へ都市機能を集約することで、除排雪の問題を無くし、交通網を集約して都市全体の機能性を高めるのが狙いだそうです。地上は北海道の豊かな自然で繁栄するのだそう。すごいことを考えつくものですね!
どれも豊かな発想力があり、非常に興味深い提案です。社会人は学生の豊かな発想に刺激を受け、学生もイノベーティブな活動に取り組む社会人とのグループワークは良い経験になったようです。最後の発表は1チーム2分と駆け足になってしまいましたが、じっくりと考え、意見を述べ合った結果のユニークな提案が並び、無事終了となりました。
執筆・写真 足立 岬(札幌市立大学デザイン学部 人間空間コース4年生)
セッションの詳細はこちら
基調講演を受けて、観光、交通、エンターテインメント、飲食、広告など業種・業態をチームごとに選び、北海道にイノベーションを起こす製品やサービスのアイデアを出し合いました。
相続×テクノロジーで日本の風潮に挑戦する相続・贈与プラットフォーム「レタプラ」
北海道増毛町出身の工藤さん。ファイナンシャルプランナーとして様々な業界の人と繋がりができる中で、「保険×テクノロジーや不動産×テクノロジーはあったけれど、相続×テクノロジーという業態がない」ことに目をつけます。そこを起点とし、誕生したサービスが「レタプラ」です。レタプラは相続・贈与に関するプラットフォームとして機能し、「50歳から家族と相続の第一歩を考え始める」ためのサービスです。「元気なうちから相続の話を始めると、死んだ後のことを話すなんて!と拒否反応を示す人もいます」と工藤さん。しかし、死後の相続はネガティブな点も多いと語ります。「例えば家族がすでに独立しており、不動産や保険など、譲る際に一手間必要な資産のやり取りが不便」、「下手すると相続できない、不要だ、といった結果になりうる」など様々な不都合が生じることも。レタプラはその溝を埋め、「フラットな話し合いのきっかけ」として提案したいサービスなのだそう。
2015年、相続税の法改正により遺産にかかる基礎控除額が引き下げられました。2018年には認知症の方が有する資産が140兆円との報道もありました。工藤さんは「相続は多くの人に関わって来る問題ですし、例えば認知症になると資産を動かすことが難しくなります。本来、相続は早めに準備が必要になるものなのです。」と、生前からの準備の必要性を訴えます。
「レタプラは、相続の専門家が見込み客に対してアプローチするツールとしても使え、レタプラスペシャリストによる相続相談の気軽な窓口として使ってもらうこともできます。」と工藤さん。特に地方に多い、子世代・孫世代の相続需要を顕在化したり、地元の税理士には聞きづらい、といったニーズを解決するなどの見込みがあると考えています。そして北海道においては、特に第1次産業従事者の資産承継を対象とした業務を見込んで2020年には北海道版レタプラのローンチを目指します。
令和に入り、今後10年の多くの社会問題としてあげられるのは空き家問題、所有者不明の土地問題、一次産業の承継などです。そしてそもそも上記の問題点の多くは相続が起点となっている現状があります。工藤さんは「 ”死んだ時の話をするなんて” という風潮を変えたい」と語ります。「家族が元気なうちに話し合いをし、” 争続(あらそうぞく)” をなくしていきたい」。工藤さんの挑戦は続きます。
新時代の”繋がり”でイノベーションを考える
「ちょうどここにくる直前に台風19号がありました。で、この直前にグレタ・トゥーンベリさんが国連でスピーチをしましたね。かなり強い言い方を伴うスピーチで、話題になりました。」と最近のニュースを交えながら話す、株式会社ニューバランス DTC&マーケティング ディレクターの鈴木さん。
WeWork の元CEO、アダム・ニューマンのスピーチも引き合いに出し、「これから何かアクションを起こす時には、社会問題に対するアプローチや社会をどう変えたいかというビジョンがないとやっていけない、特に若い人たちはついてこない、といった雰囲気が社会に流れているのではないでしょうか」と訴えかけます。
「部分的な問題を解決するには全体的な問題を解決する必要があり、イノベーションが世界を変えるっていうことはそういうことだと思う。」と学生たちに語りかけます。
鈴木さんは、これからのテクノロジーやイノベーションに必要となるキーワードは「connected」「shared」「サービスモデル」だと言いました。これらのことは人間関係をあらためて考え直す機会でもあるし、人と社会を結び、新たな価値を作るということにもつながるように感じます。
「これからは総務省も主導している5Gの時代がきます。デジタルの技術により、物理的な距離を無効にするようなリアルの資源の活用可能性というのがあるはず。」と鈴木さん。
これらをふまえ、後ほど札幌市立大学の学生さんと一緒に「世界をどうイノベーションするか?」ということについて考え、ワークショップを行います。
”100%デジタル”ではないからこそ、もたらされる人との繋がり。カネボウ化粧品「smile connect」
カネボウグループ全体の化粧品ブランドの課題解決の仕事に取り組む中根さん。
中根さん達が作ったアプリ「smile connect」は、商品の購入履歴やパーソナルな美容情報を管理できるコンテンツです。
「アプリを作った理由は、初めて来られるお客さんが、たくさんあるブランドの中からカネボウを選ぶ理由のきっかけにしたいと思ったから」と語る中根さん。新規のお客様を惹きつけ、リピーターのお客様にも何かバリューを感じられる、ユニークなアプローチが必要だと考えていました。
今では高いアクティブユーザー数を誇り、カスタマーにとってなくてはならないアプリとなりましたが、ローンチ直後はBAさんたちからの反発がかなりあったそうです。しかしながら、これまでお客様へのアプローチといえばDMくらいしかありませんでしたが、アプリの登場によりこれが激変。「アプリだと、新規のお客様にもVIPのお客様にも変わらず同じアプローチができ、人数も比べ物にならない数でできます。実際、BAさんたちの中でもアプリがきっかけで来店されたお客様と接したりすることで、アプリの有用性を感じた方も多いと思います。」と嬉しそうに語る中根さん。
現在、このアプリはBAさんたちが積極的にお客様に勧めています。中根さんは、「デジタルだけでは届かない層へのアプローチができる。日頃関係性が築けているBAが勧めてくれる、ということで受け入れてくれるシニア層のお客様も多いんです。」と話します。確かに、100%デジタルではないことが、非常に有効で重要なポイントだと感じます。
デザインワークショップ(的な見出し)
後半は札幌市立大学デザイン学部の学生を交じえてワークショップを行います。テーマは「2030年の札幌がどうなっていたらハッピーか、その状態を示した上で、どんなビジネス/サービスが考えられるか、自由にアイデアを出し合う」。本日の登壇者や客席に座っていた観客も巻き込み、みんなでグループをつくりました。模造紙に思いついたことをどんどん書き出す手法でアイデアを練りはじめます。
観光や雪の問題にフォーカスしたり、北海道の豊かな自然をいかしたり、札幌の都市構造から捉え直したりと、各自様々な視点から「ハッピーな札幌とは?」を考えています。普段から新しいアイデアやイノベーションに取り組む大人たちを圧倒するような学生たちの発想と勢いに、びっくり。
さすがデザイン学部ということもあり、学生はみんな良く手が動きます。そしてイラストが上手い、まとめるのも上手。一緒になって大人もノリノリになるチームや、考え込む大人を学生が引っ張っていくようなグループなど、取り組み方は多種多様。
それでも、順調にいくグループはなかなかありません。シンキングタイムも押しに押し、時間もギリギリになり慌ただしくまとめ始めます。最後は1グループ2分のプレゼンテーションで発表、各グループのアイデアをみんなで共有しました。
こちらのグループは北海道民向けの物産展の開催を提案。人の集まりと流れを生み、地域振興を狙う提案です。
「SHARE CITY」と題し、北海道の地域特性を生かし季節に応じてあちこちからの居住者を受け入れる街。花粉症の人を花粉のひどい時期だけ受け入れたり、寒くなったら自身が暖かいところへ移ったり、逆に積雪を体験したい人を受け入れたり、ライフスタイルにあった街へ移り住む多拠点居住の提案です。
持続可能な北海道を目指して、なんと全ての都市機能を地下に持っていくという驚きの提案も。地下へ都市機能を集約することで、除排雪の問題を無くし、交通網を集約して都市全体の機能性を高めるのが狙いだそうです。地上は北海道の豊かな自然で繁栄するのだそう。すごいことを考えつくものですね!
どれも豊かな発想力があり、非常に興味深い提案です。社会人は学生の豊かな発想に刺激を受け、学生もイノベーティブな活動に取り組む社会人とのグループワークは良い経験になったようです。最後の発表は1チーム2分と駆け足になってしまいましたが、じっくりと考え、意見を述べ合った結果のユニークな提案が並び、無事終了となりました。
取材を終えて
札幌ではあまり機会のない社会人と学生のワークショップでしたが、普段からデザイン思考で制作に取り組むデザイン学部の学生さんは、やはり手慣れていてすごいなあ〜と思いました。単純なアイデア出しのワークショップも、慣れていないとなかなか難しいものなんですよね。大人も、そんな学生さんたちから大いなる刺激やヒントをもらったに違いありません。とても賑やかで自由な、素晴らしい雰囲気のワークショップでした!執筆・写真 足立 岬(札幌市立大学デザイン学部 人間空間コース4年生)