【動画・書き起こし全公開】オードリー・タン氏登壇セッション「市民生活とテクノロジーの調和」

Date : 2020/10/15

Shere :

2020年10月14日(水)13:00から開催されたオープニングセッション「市民生活とテクノロジーの調和」のアーカイブ動画を公開します。

NoMaps2020は、社会をもっとよく、もっと面白くする発想やアイデアが集まるフェスティバルです。
今年はコロナ禍での開催ということで、距離や時間を超えるオンラインと、コロナ禍を超えるリアルな場づくりの2つの軸で、
10月14日(水)〜18日(日)までの5日間で、オンラインと札幌市内の会場で開催しています。
詳細はこちら▶︎https://no-maps.jp/schedule

その中の1つ「NoMapsカンファレンス」は毎年さまざまなテーマ・切り口のトークセッションを行っています。
NoMaps2020のオープニングセッションには、台湾デジタル大臣オードリー・タン氏が登壇。
2020年10月14日(水)13:00から開催されたオープニングセッション「市民生活とテクノロジーの調和」のアーカイブ動画を公開します。

IT、テクノロジーはもちろん、食、メディアアーツ、教育、働き方、農業、金融、スタートアップなどなど、さまざまな切り口で展開されるトークセッションのアーカイブ視聴ができる「アーカイブ視聴チケット」は1,000円で発売中です。詳細はこちらからご確認ください。
▶︎登壇者
オードリー・タン(台湾デジタル大臣)
田中邦裕(さくらインターネット株式会社 代表取締役社長)
▶︎モデレーター
古川 泰人(Code for Sapporo / Code for Japan)


クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この作品は クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。
複製・転載・引用の際には、@NoMaps Comittee とご記載ください。

なお、本アーカイブの公開は、台湾・オードリー氏が推奨する「Radical Transparency(徹底的な透明性)」原則に基づき、無料公開しています。
 

配信動画アーカイブ

 

全文書き起こし

古川さん▶︎ 
地図なき領域を開拓するという狙いのNoMapsです。そのキーノートセッションとして『市民生活とテクノロジーの調和』、ソーシャルイノベーションという観点で今日はお話を伺いたいと思います。今年のNoMapsのテーマは「beyond」ということで、これからの社会をどうすれば良いのか、について人々は本当に地図を持たないまま歩き回っている状況だと考えています。こんな状況下で北海道という中央ではない地域ならではの視点を一緒に考えれば良いのではと考えています。よろしくお願いいたします。

今回のインタビューでは二つのことについてお伺いをしたいと思います。「現在行われていること」と「これからのこと」についてですね。今回このイベントに参加されてる方はプログラミングやデジタルの文化にあまり詳しくない方もいらっしゃいますので、その辺も含めて少し緩めの話ができるとありがたいと思っています。よろしくお願いいたします。


オードリーさん▶︎
だから私はこのような格好をしているんですよね?スーツを着てても良かったんだけど・・・(笑)


古川さん▶︎
では、その前にちょっとまずウォーミングアップの質問をしたいと思います。

北海道についてなんですけれども、北海道はピークの時、年間50万人の台湾の観光客がいらっしゃっています。私の台湾の友人たちも北海道に来たいとよく話しているんですが、これまでオードリーさんは何回も日本にいらっしゃっていますけれども、北海道にいらっしゃったことはありますか?また北海道に関するエピソードや何かイメージというのがあれば教えていただきたいと思います。


オードリーさん▶︎
ええ、沖縄や大阪、東京はもちろん、ほかにも色々行ったことがあります。北海道といえば、2015年にたしか札幌コンベンションセンターで開催されたWorld Wide Web Consortium Technical Plenary and Advisory Committee Meeting に参加しようと思っていました。私は残念ながら行くことができませんでしたが、友人のボビー・トンが参加しました。
そう、台湾のコミュニティでハッカソンを開催する時にはピザと、よくビールを出すのが定番なんですが、もちろんビールは「サッポロ」ですよ(笑)。私が札幌を訪れるというよりは、札幌が私のところに来ているような感じでしょうか(笑)まだ個人的に訪ねたことはないのですが、コロナが収束したら北海道に行くのが本当に楽しみです。

古川さん▶︎
コンベンションセンターは私がいるスタジオから恐らく100mぐらいの近さです。ひょっとしたら昔すれ違っていたかもしれないですね(笑)

オードリーさん▶︎
北海道はぜひ何日もかけて訪問したいと思っています。今の内閣に参加する前は、ヨーロッパを旅しながら色々な場所でたくさんのハッカソンに参加していたのですが、いつもほんの1〜2日くらいしか滞在していませんでした。パソコンの背景画面を変えているだけの感じと言いますか(笑)
閣僚になって学んだことですが、アイデアが生まれた土地や人々のことを本当に理解したいのならば、1週間は最低でも必要だと思っています。ですから、北海道に来る時にはもう少し長く滞在したいですね。


田中さん▶︎
初めまして。田中と言います。さくらインターネットの代表をしてます。私は、北海道というのは大阪生まれの私からすると観光地でした。ただですね、11年前にデータセンターを涼しい場所で作ろうということで初めて北海道に進出し、それ以来我々にとってビジネスの場所になっていると。なので私の個人にとっては観光の場所、会社にとってはビジネスの場所、それが北海道です。


古川さん▶︎
それでは、早速いくつかの質問に進みたいと思います。
オードリーさんの GitHub を拝見すると日々コミットメントがされていて現役の開発者であることが伺えます。東京都のコロナサイトへの粋なコントリビューションもありがとうございました。今も政府のお仕事をされながら、そういうコミットメントをされているということなんですけれど、最近興味を持って勉強しているジャンルであるとかプログラム言語やライブラリなどがあれば教えて下さい。


オードリーさん▶︎
最近、XRスペースという拡張現実を取り扱うスタートアップに興味を持っています。このVRヘッドセットは独自の5Gネットワークに繋がっていて、コントローラはなく、自分の手で直感的に操作ができます。とても軽く、3、4時間は疲れを気にせず装着できるのが素晴らしいですね。
今、それを使って、数名のアーティストと共同で仮想空間に「合成された私のようなもの」を創ろうとしています。そこで質問をすることもできますし、その空間にいるオードリーは、私がGitHubで公開している文章生成AIプログラムをもとに詩を生成することもできます。これはまさに、完全な拡張空間でインタラクティブな対話ができるアートインスタレーションになるでしょう。
Skypeは、離れた部屋にいながらお互いをとてもハッキリ見ることができますが、5Gは人と人をより近くすること、そしてまるで同じ部屋に一緒にいるような感覚になれる点が好きですね。


田中さん▶︎
私も最近実はXRにすごい興味を持っていて、かつ、ビジネスとしても5年後ぐらいには絶対VRが来るなという風に思ってるんです。 今でもVRってすごい普及しているんですけども、デバイスがどんどんどんどん進化していて、多分あと5年くらい経ったら、みんなが使えるぐらいコモディティの製品になってくるんじゃないかと思ってるんです。手始めにですね、XRとまでは行かないんですけれども、ダイビングが好きで、今、那覇に住んでいるものですから、海の中の3D写真を撮りまくってですね、Oculus Questでみんなに公開をしてるんですけども、その体験をリアルタイムに海の中でやれるようにしたいなと思っていて、おそらく5年後には私の知的好奇心を満たしてくれるぐらいには成長してくれるんじゃないかな と思っているんですね。


古川さん▶︎
では次の質問に行きたいと思います。少しメタな話なんですけれども、オードリーさんはほぼ毎週のように日本や世界のオンラインイベントに出席されています。特に日本もかなりのイベントに登壇されてると思うんですが、ほぼ共通したような問いかけがあると思います。で、そこから見える今まさにこの時の日本についての印象や、彼らが今困っていることについてどのようにお考えでしょうか?


オードリーさん▶︎
とても素晴らしい質問です。私はこれまで、中学生から高校生、そして中央政府に至るまで様々な方々と会議で対話をしてきました。日本と台湾はテクノロジーに対する考え方として、社会がテクノロジーの進む方向を導いていかなければならない、という共通の視点を持っています。そしてテクノロジーは単なる興味関心ではなく、社会のインフラ、言うなれば社会の目的に応えるものにならなければいけないと私は考えています。 

現在各国で進められている第四次産業革命(Industry 4.0)のコンセプトはみんなが理解していると思いますが、日本政府が提唱しているSociety 5.0が意味するところは、社会は産業よりも1段階新しくあるべきものであり、この先、「社会と産業がともにどう歩んで行くか?」についてアップグレードしていかなければならないということなんですね。決して社会が産業に合わせていくべきではありません。
世界中の人々が「創造的破壊技術」の代わりに「包摂的技術」に取り組む方法はないか、と日々考えていますが、その点において世界を見渡しても台湾と日本には多くの共通項があると思います。

田中さん▶︎
非常に面白いなと思いました。実はですね、今回オードリーさんと対談するということでですね、いろんな人から羨ましがられたんですね。私自身、あのお世辞ではなく本当に光栄に思ってるんですが。日本がインダストリアル4.0だとかソサイエティ5.0で変わろうとしている現在、それでも変われないんじゃないかと思っている国民が多いんです。そんな中で、今度デジタル庁という省庁ができて誰が長官になるのかというのが興味深く見られてるんですけれども、よく聞くのがオードリーさんに長官になってほしいという声を聞くんですね。それぐらいなんでしょう、日本ってビジョンは持っている、でも実行力に欠ける、そんな時にオードリーさんを期待するぐらいに日本は閉塞感はある。この状況を打破していかないといけないと思ってます。これがコメントで、もう一つ、質問したいのは、なぜ国の中にあの日本の中にこの人がリーダーになったらいいという人が出ずにオードリーさんにリーダーになってほしいとみんなが思うのか、その日本の現状について何か客観的に感じられることしたいです。


オードリーさん▶︎
なるほど。2016年に私はデジタル大臣就任について打診を受けましたが、当時、G0v(ガブゼロ/零時政府…台湾最大のシビックテックコミュニティ。メンバーは1万人以上とも言われる)の活動の中でたくさんの議論をしていました。そして、そのメンバーには少なくとも5人は私と同等の適任者がいたと思います。G0vサミットにいらっしゃったことがあるのであればご存知と思いますが、G0v活動の当初からのメンバーを始めとして、G0v運動には優秀なメンバーが多く、デジタル大臣の候補者に不足はなかったはずです。
私が選ばれた理由は、33か34歳ですでに仕事を引退をしてひまわり運動にフルタイムで参加していたことと、そこでたくさんの方と仕事をしていたため、私はある種、公僕(広く公衆に奉仕する者)として見られていたんですね。そのためだと思います。
また、日本のCode for Japanにもデジタル大臣と同等の仕事ができるであろうたくさんのチャプターリーダーや地域リーダーがいるのではないか、と興味深く見ています。
このような人材を活用するために、台湾ではリバースメンターシップ制度という仕組みがあり、それぞれの大臣には通常、35歳以下のメンターが2名付きます。
私も当時のデジタル大臣であるジャクリン・ツァイのメンターとして、同じくG0vのメンバーと一緒に今のオフィスで勤めました。リバースメンターシップ制度は年長者である閣僚と一方ですでにデジタルネイティブとのコネクションを持つ若者の、世代を超えた連帯を築きました。台湾の場合その中心がG0vでしたが、日本の場合はCode for Japanがその変化を起こせるのではないかと思います。
ですから、このお話ついて適任者が必ずしも私だとは思いませんが、多様な背景での連携を充実させるという役割につく方はシビックテックコミュニティと強いコネクションを持っている必要があるでしょうね。


古川さん▶︎
ありがとうございます。一点、私からもちょっと関連して質問なのですが、そのメンターの話は他のニュースでも見たことがあるのですけれども、若い世代が年上の世代に対して意見や何かをディスカッションするという風な文化に関しては東洋思想は儒教思想で目上の人に対して物を言うのはちょっと遠慮をしてしまうという風なカルチャーがあったりはするんですけれども、その辺りはどのようにファシリテーションされていますか ?

オードリーさん▶︎
例えば、Youth Advisory Council(青少年諮問委員会)によって「リバースメンター制度は儒教思想よりも尊重されます」と明確に示されていればより簡単だと思います。
つまり、このような宣言をベースとして、Young People’s Council(若者会議)が本質的にどういうものなのか誰にでも理解できる仕組みを作ってしまえば、たとえ年長者であっても、平等な立場で若者やリバースメンターに対して必要なリソースやサポートを提供するでしょう。
そうすると、より多くの人々が年功序列よりもこの制度を規範とすることになるのです。制度を明確に「書き出す」ことがとても重要です。


古川さん▶︎
自発的な協働についてお伺いをいたします。特に地方に住む私たちにとってはイノベーションが遅れる傾向にはあります。例えば、地方自治体のスタッフは日々の伝統的タスクに追われてオープンデータについてあまり積極的ではなく、公開にしてもオープンの振りをしたオープンウォッシングの問題も増えつつあります。日本ではアドバイザーが各地域でレクチャー、ワークショップを行っていますが、その後の地方自治体の継続性についてはまだ課題が多いとされています。オードリーさんはソーシャル・イノベーションツアーで台湾国内の地方の様々な人々とコミュニケーションや意見交換をしていますが、その後彼ら自身が自発的にプロジェクトを推進できるために行なっている支援やモニタリングはあるでしょうか ?


オードリーさん▶︎
国内の話をすると、台湾では総統杯というハッカソンを開催していて、毎年優秀な5チームに総統(国家の最高指導者)自らトロフィーを渡して表彰しています。今年約300組の応募の中で最終的に受賞した5組は全てオープンデータを活用したアプリ開発チームだったのですが、中央政府からの選出は1組だけで、他の受賞は全て地方のソーシャルセクターやローカルグループでした。これは地方のソーシャル・イノベーションの地位を向上させる出来事であり、とても小さな地域からでもプロジェクトをスタートできることの証明となりました。

日本でもソーシャルイノベーションはどんどん生まれていますね。確か「mymizu(マイミズ)」という名前でしたが、新しいペットボトルを買う代わりにリフィル(給水)をしようというもので、mymizuチームは近くにある給水所がわかるマップも作っています。そして、台湾でもとても似たイノベーション「Serving Tea(給茶)」が登場しました。ただ、mymizu との違いは、給水所だけではなく喫茶店や、人々の居場所を生み出すための都市計画の一環としてプレイスメイキングショップを併設したところです。そこでは、社会起業家たちが作る製品、例えば、規格外の農産物をジャムに加工したものや、さらに、そのジャムを飲み物に入れて販売しています。こうして、人々はペットボトルをリフィルするだけではなく、プレイスメイキングショップの社会的目的を理解し、そして彼らの習慣までもが変化していくのです。

さらに、総統杯ハッカソンで授与されるトロフィーにはマイクロプロジェクタが内蔵されていて、スイッチを入れると蔡総統が映し出され、彼らが過去3ヶ月に行ったことを次の12ヶ月間、正式に国の政策として取り入れることを約束してくれます。その後、Serving Teaのアプリの利用は10倍に増え、ペットボトルのリフィルや習慣が変わるにつれ、より多くの人が多様な形で環境保護について考えるようになりました。この話はほんの一例ですが、行政府がハッカソンにおいて社会実装も含めた公約を掲げておけば、それに追従する人々が現れるのは明白です。総統が公約として1年以内に全国で政策を実行するとハッカソン参加者だけでなく多くの国民が知っていれば、各地域の住民もその活動に強く参加を希望するようになり、もしかしたら、環境保護に関するデモの頻度もそれほど高くはならないかもしれません。


田中さん▶︎
非常に素晴らしいなと思ったのが、総統自らがコンテストを主催し、それに対してガバメントセクターも含めてみんなが応募をしてそれが最終的に国のプロジェクトになると。日本でもできるはずなのにやってないのでこれは是非政府に提言したい。
もう一つ思ったのが、ものごとを継続するためには、そして拡大していくためには国の力ってすごく重要なんだけれども物事を始めるのは常に市民からだということを実感したのが感想です。


古川さん▶︎
私も総統杯のハッカソンの授賞式を YouTubeで見ていたのですが総統自らがトロフィーをちゃんと参加者の学生とかに渡して彼らはとても嬉しそうだったんですよね。まさにあの時のテンションが本当にあのシビックエンパワーメントという形で地域にインストールされていくのではないかと感じました。


古川さん▶︎
北海道は日本の中でも第一次産業がとても盛んな地域です。例えば、様々な農産物、漁業資源、木材加工などの産業が盛んです。ただし、この分野も行政組織などと同様に多くは伝統的なシステムと、まぁ根性みたいなものでちょっと成り立ってる部分がありまして。デジタルの恩恵が受けられないっていうのは多数あります。以前札幌で台湾のg0vメンバーの方にリンクトオープンデータとQRコードを活用した食品のトレーサビリティシステムの紹介を受けました。最近ではこのように第一次産業に対するイノベーションは台湾ではありますか?また、それが実装されるにあたって本当のフィールドワーカーですね、つまり農夫や漁民などが自発的に参加できるインセンティブはあったりするのでしょうか ?


オードリーさん▶︎
そうですね、春の農薬散布のように必要な人手を集めるのが困難な場所などでは特に興味があります。
そのような作業をドローンに移行するため、日本でも、幕別町農協や北海道帯広農業高校、それに帯広工業高校などの皆さんが共同でドローンを使った農薬散布の実験をやられていたのを私は知っています。16リットルの巨大なタンクを使用されていましたね。

台湾では、5G技術を伴うこのようなドローンを導入するためには、実験的な目的だけではなく日常的な利用のためであることを確認しています。大きな自治体ではすでに光ファイバーや強固なWiFiネットワークがあるため5Gについてはあまり取り上げられませんが、より田舎な場所であればあるほどそのような光ネットワークを農場の全域に敷設することは難しいですよね?5Gはそういうところでこそ活用の意味があります。ですから、私たちは、まず初めに漁業や農業が盛んな田舎や地方を中心に5Gの導入を始めました。
5G無線技術の設計や業務委託をする際、5つの通信事業者には多額の予算をあらかじめ先払いするように命じています。そして、今年からより多くの地方に再投資を始めますが、地域の共同組合や社会的起業家たちが通信事業者と共同事業を行うことに対して奨励金を出すとともに、自動運転車や遠隔医療、遠隔教育などを含んだ5G導入のサンドボックス(試行錯誤できる制度)に取り組みたいと思います。


田中さん▶︎
日本でもサンドボックスを作って5Gで新たな実験をたくさんしてると聞きます。日本ははとても長い国なので、北海道だと酪農であるとか農業みたいな課題があるし、沖縄にいくと水産資源の保護とか珊瑚の生育のモニタリングだとか地域課題がたくさんあります。そういった意味でいうと都会にはインフラは整っているんだけれども田舎に行くとそれぞれ全然違う課題があって、それに対してテクノロジーでサポートできることがたくさんあって、そのためにサンドボックス制度が全国に広がっていくのは重要と感じました。

もう一つ質問があるのが、正直、沖縄からすると東京に行くよりも台湾に行くのが近いんですよね。COVIDの影響でもはや国境関係なくコラボレーションが発生しているわけなんですけれども、台湾の人たちとそれこそ沖縄の人達が一緒になにかGOV(政府)という観点で協働できるものがあるんじゃないかと思うんですが、そのことについて見解を聞かせてください。


オードリーさん▶︎
つい先日、9月19日に沖縄青年会議所のITフォーラムから電話があり、そのようなコラボレーションについてたくさんのアイデアを意見交換しました。以前、沖縄を訪問した時には台風が直撃してしまい、1日だけホテルにほぼ隔離されてしまったのですが、きれいな海が見えて、インターネットの接続も良好でとても快適に過ごすことができました。その私の体験談に続けて、例えば、沖縄に飛んで14日間の隔離生活を余儀なくされたとしても、どうすれば隔離先のホテルで観光客のような体験ができるのか、といったブレストを沖縄青年会議所の皆さんとしました。
これは実際に台湾で行われているサービスなのですが、ホテルの中でも台湾名物の「夜市」を提供していて、たとえ隔離先のホテルの高層階に滞在していても観光客のような体験ができるのです。ちょっとした小道具やテクノロジーがあれば、もっと同様の観光体験をしてもらうことができるでしょう。コロナが収束して、ワクチンを接種した後には、コロナ渦中のような距離や遠隔さを感じる関係性よりも、人と人との繋がりはより強くなるでしょう。ですから、沖縄青年会議所の皆さんとの会話は今でも大切に覚えています。


古川さん▶︎
ありがとうございます。オードリーさんから幕別という地名が出て、おそらく、北海道東部に住んでいる、あまりメジャーではない地名じゃないんですけど、多分北海道の人も喜んでいるんではないかと思います。
5Gのインフラの整備について以前オードリーさんもここでもお話しされてましたが、地方を優先的に5Gの導入を行ったという風な政策がありました。これはデジタルデバイドを解消するために優先的にとった判断なのでしょうか 


オードリーさん▶︎
そうですね。台湾のサンドボックス制度は、解決すべき社会的問題や課題が存在することが前提で導入されておりとても実践的です。先にも述べましたが、市区町村エリアでの5Gは「あれば便利なもの」ですが、地方では「なければ困る必要なもの(マストハブ)」としての事例がたくさんあります。そのようなマストハブシナリオにおいては、5Gを単なる光ファイバーや他の接続手段と同様の選択肢として考えるのではなく、社会投資家たちが課題のある地域をより良い場所にするために投資資金を使おうという議論になりやすいのです。
ですから、特に医療や教育、そして通信分野においてある種の平等性が地方にももたらされることが明確となり、長期的には、投資の社会的リターンがとても高いという現実的な見解でもあります。


古川さん▶︎
地方への投資は民間企業にとってとてもコストがかかるものになってしまうと思います。例えば、経営者だったらどうしてその利益が得られないのに地方に投資をしなければいけないのかという風なよくある質問があると思うのですがそこはどのようにして交渉をされましたか?


オードリーさん▶︎
そうですね。必ずしも企業にとって非常にハイリターンな投資である必要はないと思います。しかし、これはとても包括(Inclusion)的な考えですが、特に中小企業にとっては自身のイノベーションを促進することになるのではないかと思います。ほとんどのイノベーションは中小企業の研究開発部門以外のエコシステムの中で起こります。これはオープンソース活動の根幹的な議論になりますが、オープンイノベーションのエコシステムへの参加と貢献する機会を得ることで、企業は利益よりもコストの削減ができます。基本的には研究開発をクラウドソーシングして、非常にコストもリスクも高いインフラ投資にかけるコストを減らすことができます。

例えば、仮想通貨で用いられる分散型台帳技術の実験をするとしましょう。先ほどお話した研究開発のクラウドソーシング化によって10種の異なる分散型台帳技術を試すことも可能です。そして、それらのシステムはオリジナルのソリューションと同様には機能しませんが、もしかしたら、ある特定のユースケースにおいて価値を生み出す分散型台帳を見つけられるかもしれません。しかし、もし、全ての研究開発を自社で行うのであれば、どのような中小企業も、たとえ中堅もしくはより大きな企業であっても、研究開発のクラウドソーシング化と比べてそれほど多くの実験を同時に進めることは不可能でしょう。ですが、Linux財団などによるハイパーレッジャーといったオープンイノベーションコミュニティと手を組めば、自分のビジネスにとって意味を持つ場合にのみ恩恵を得るだけではなく、自社の技術スタッフにオープンイノベーションの最新かつ最高の知識を与えることができるのです。そうすると、何か新しい課題が発生した場合でも、彼らは「ああ、それはここで発明されたものではないのでわかりません」とは言わず、「このメンテナーを知っているので、アドバイスのリクエストか電話をしてみます。そして、この新興技術に一緒に取り組みましょう」という対応になります。

このような事例はすぐに費用対効果を得られるものではなく、投資でもありません。しかし、事業開発と人材開発の面で高い効果があるでしょう。


古川さん▶︎
では、プライベートカンパニー、企業についての質問に行きたいと思います。ソーシャルイノベーションと企業という観点なんですが、ソーシャルイノベーションに参加するために民間企業が果たす役割についてお尋ねしたいと思います。例えば、札幌のクリプトンフューチャーメディアっていう会社はコロナ対策のためにイベント主催者向けの登録システムを開発したり、田中さんのさくらインターネットではシビックテックやオープンソースコミュニティへの積極的な支援や寄付を行っています。しかし、国内ではこのような企業はまだごくごくわずかだと思っています。台湾ではトレンドマイクロなどが様々な貢献があったと聞いていますが、今後企業によるデジタル面での社会貢献をどのようなものに期待されるでしょうか?また、今出てきた企業は割と大きなサイズのところですけれども企業体力がない中小企業でもソーシャルイノベーションに貢献できることはありますでしょうか ?


オードリーさん▶︎
トレンドマイクロのケースは良い例ですね。彼らは数人のスタッフが空き時間にボランティアでガブゼロのプロジェクトである「CoFact(コファクト)」に協力をしてくれました。CoFact は日本でも使われているLINEのプラットフォームを利用しています。LINEも東日本大震災をきっかけに生まれた企業社会貢献でしたよね?

LINE上にはとてもたくさんの人が誤った情報を拡散していて、そして、LINEが誤報の発信源でもあったのです。彼らはどの誤った情報が流行っているのかを見つけ、意図的にその誤報を破壊する仕組みをデザインしました。トレンドマイクロは、CoFactプロジェクトが報告されたスパムやソーシャルメディア上の誤報のファクトチェックをクラウドソース化しているのを見て、後に独自のシステム「Dr.Message(ドクターメッセージ)」を開発してリリースしました。初音ミクほどはかわいくないかもしれませんが、
Dr.Messageはマスコットにとてもかわいい犬のキャラクターを使っています(笑)。そうしてDr.Messageはたくさんシェアされ、多くの人が犬のボットをチャットルームに招待しました。彼らが誤った情報を拡散する度に、すぐに犬のボットが鼻を嗅いで検知し、とてもおもしろい反応でお知らせをします。こうして、このキャンペーンはとても流行して、人々はかわいい犬によってワクチン接種を受けました。私たちはこのことを「Humor over Rumor(ユーモア・オーバー・ルーマー 噂よりもユーモアを)」と呼んでいます。

ですから、たとえ中小企業のオーナーであっても、シビックテックコミュニティはすぐそばで歓迎しているものです。例えば、私が以前、Socialtext社というスタートアップで働いていた時には、恐らく彼らはフードキャンプをもじったと思うのですが、バーキャンプというイベントを開催していました。だって食事の後はお酒ですよね(笑)。バーキャンプはとてもフレンドリーなハッカソンで、オープンイノベーションのためにSocialtext社の構内にたくさんの人を招き、また、ウィッキー・ウェンズデーと呼んでいたイベントでは、社員は20%の休暇時間をもらいソーシャルイノベーションプログラムに取り組んでいました。そして、水曜日にはコミュニティと一緒にどのようなソーシャルイノベーションに挑戦したのか、会社にデモを見せる場がありました。まさにこのような仕組みがあったからこそ、トレンドマイクロは犬のDr.Messageを1つのサイドプロジェクトから社内事業に昇格させたのだと思います。そして、これこそがオープンイノベーションなのです。


田中さん▶︎
こういうシビックテックへの貢献っていうのは宣伝とか広報ではないというところなんですね。何かと言うと、物事はどのようなスケールで捉えるかによって判断が変わるという風に思ってます。なので小さく今だけのことを考えると社会貢献っていうのはコストにもなるし、時間も取られて利益にそれほど影響がポジティブに起こらないということになります。ただ、長く大きな観点、例えば、社会全体であったりとか5年10年のことを考えると、社会とのつながりを持っていて、自分たちの企業がその社会にとってかけがえのないものになっていく必要があると思っています。そうなると社会貢献をし、社会と繋がっている企業の方が中長期でしっかりと存在意義が維持することがあります。なので、そういった観点で目先で何か有名になるからやってるということよりは、その素晴らしい社会活動を応援することで、最終的に企業としても必要不可欠な企業となり10年後20年後をしっかりと継続的に存在できるというのはこの背景にあるんじゃないかな、と思っています。

あともう一つあるのが、この活動、シビックテックであったり社会に対する貢献というのは、私が決めてるわけではないんですね。いちいちこれに支援しろ、あれに支援しろと言ってるわけではなくて、現場の人たちが、これは会社と社会の繋がりのため、社会のため絶対必要だろうと思って現場が判断しているというところが重要です。なので私自身が作ったのはそういう会社であって、実際にそれぞれの判断をしてるのは現場の皆さんなのですね。社会とのつながりってトップが決めることではなくて、全会社にいる人たちがフラットにつながっていく、これが非常に重要だと思っています。


古川さん▶︎
次はカルチャーとコンテンツに関して話をしたいと思います。北海道ではアイヌといった先住民族の文化継承について様々な課題やチャレンジがあります。台湾には多くの先住民族の方が生活をしており、以前私はガブゼロサミットで少数民族の言葉をオープンデータにして辞書を公開したという風なプロジェクトが印象に残ってます。オードリーさんもMoeDict(萌典)という先住民族の言葉を収録したオンライン辞書プラットフォームを開発されてましたが、先進的なデジタルと伝統的な文化を守る、そしてオープンにして利活用を促進させる姿勢はひとつのインクルーシブだと考えているんですけれども、このような活動をサポートする際、両者、伝統的と先進的な両者のコミュニケーションで工夫している点はあるでしょうか?


オードリーさん▶︎
先住民族の視点から包括・包摂について話をするのはとても興味深いトピックスですね。根本的に、市民参加の話とは考え方が異なります。例えば、あなたが選挙から排除されたのは年齢のせいではなく投票するにはまだ若すぎるから、と言われれば理解できますよね。また、あなたは女性だから選挙権はない、ということからの解放運動とも違います。
現代社会では、インターセクショナリティ(様々な差別や抑圧は交差しているという考え)や参政権の概念が浸透しており、投票権は基本的人権として女性が自分の権利を主張するための力である事などと皆が自覚しています。これは自然な進歩といえるでしょう。
アジアには法治国家がいくつもあり、それぞれ独自の時間経過の感覚を持っていますが、市民参加という点については意見の多少の違いはあれど、我々はさらに包摂的にならなければならない、という共通認識はあると思います。
ただ、私たちは皆ティーンエイジャー、10代の頃に多感な時期を経験し、私も含めてですが、そのうちの半分は女性の思春期を経験します。つまり、世界にはとても大勢の人がいるということなんですね。

しかし、アイヌ民族や萌典的な視点、またアミ族や他の言語を話す先住民族にとっては全く事情が異なります。もし国民投票があれば、彼らの存在は非常に少数派となりその声ですらなかなか社会に届きません。また時間の経過とともに、彼らが国民投票への直接参加や代議士を国会に送り出せるようになるという保証もありません。むしろ、状況は悪化しており、伝統文化について記憶している人は減少し、また、先住民族に対して観光向けの誇張した仕事であったり、文化的外交の役割を押し付けるようなことも起こっています。そうすると結果的に、先住民族の彼ら自身の力や行動意欲を奪うことになってしまうのです。この複雑なトピックは5分間で話せるようなものではありませんが、端的に言えば、アイヌのためではなくアイヌと一緒に行動すること、そして彼らの心に寄り添って動くことが大切で、先住民族の視点からすると、彼らのため”for”ではなく彼らとともに”with”、そして彼らの今後のため”after”を念頭に行動することが正しい姿勢であると思います。

古川さん▶︎
田中さん、このインクルーシブとテクノロジーという視点についてどうでしょうか?

田中さん▶︎
まず、一番我々が念頭に置かないといけないのは、効率という言葉からの解放論だという風に思ってます。世の中の効率的にって考えると均質化してしまった方がやりやすいという風になります。ダイバーシティ・アンド・インクルージョン、これってともにないといけない言葉なんですけれども、それぞれの多様性を認めた上でその多様な人たちの個性を失わないまま一緒に動けるようにするということが極めて重要なんですけれども、今起こってる行動というのは二つあると思うんですけれども、均質化しようっていう行動、もしくは分断させようという行動になってると思います。なので、ダイバーシティ、多様性というのを認めた上で、それをいかにインクルージョンするか、これをセットで考えるということをしなければいけないんですけれども、効率的に考えると別々にしてしまうか、それとも均質化してしまうことになりがちです。なので効率的ではないけれどもその方がハッピーであるという答えを求めるために、ダイバーシティとインクルージョンを同時に進めて、それは効率が下がったとしてもその方が幸せなんである、ということをみんなが納得するまで話し合うということが重要ではないかなと思っています。

古川さん▶︎
私たちのコミュニティとかでも最近いってるのはさっき話しされていた”for”と”with”の話はとても重要なと思っています。テクノロジーだけが必ず強力なツールであるかどうかという視点はここ数年来いろんなところで話が出てるので、もちろん言葉では”for”かもしれないけど、実はインクルーシブを含んだ”with”であるという風な視点をとても重要だなと思いました。

古川さん▶︎
次はコミュニティの話を少ししたいと思います。先ほどのお話にも少し関連はするのですがソーシャルイノベーションやシビックテックを行うにおいてプログラマーだけが必要なメンバーではないと考えています。日本ではまだまだこれらのコミュニティには男性がとても多く、時間の余裕のある30代や40代が中心という風な状況です。私はガブゼロのハッカソンを見学した時に、参加者を付けるステッカーがとてもユニークで良かったと思います。それはデザイナーです、とか私は原子力に詳しいです、という風に多種多様で大変興味深く感心したことがありました。では今後ソーシャルイノベーションにはシビックテック活動において必要とされる属性やスキルっていうのはどういうものだとお考えでしょうか?また、そんな今外側にいる彼らを活動とともに一緒にやっていく、さっきの”with”ですけれども、っていう工夫というのは何があるでしょうか。

オードリーさん▶︎
これはちょっとした言葉の使い方なのですが、台湾ではプログラミングのことを「ソフトウェアデザイン」と呼んでいます。ですから私はソフトウェアデザイナーです。ただ言葉を変えただけですが、ソフトウェアエンジニアとは言わないのです。プログラミングの過程でも、人と話をするのが重要なデザイン寄りのパートや、コンピューターに向かってひたすらコードを書き、設計を担当するエンジニアもいます。しかし、私たちはプログラムデザインという言葉によって、この仕事が「人」を相手にするものであるということを強調します。これにより、ソフトウェアデザイナーとして働く人のジェンダーバランスの均衡が取れるようになり、また、インタラクションデザイナー、サービスデザイナーなどソフトウェアを設計する作業においてとても重要な、他分野のデザイナーとの会話がしやすくなりました。
今後、AIがサポートするインテリジェンスプログラムによって、コードを書く作業はより自動化されると考えています。もうすでに安価なGPT-3(文章生成AI)でも、仕様を伝えればプログラムコードが自動的に生成されます。そのようになると、人と人との会話によって自分で課題を発見する対人スキルや、相手の話をよく聞いて対話し、異なる立場にいても共通する価値を発見する能力を持つ人々は、もはやデザイナーやファシリテーターと言えるでしょう。私たちがソフトウェアプログラマーをエンジニアというよりもデザイナーの「人」として認識することができれば、AIとともに歩む未来に対する準備はできていると思います。

田中さん▶︎
今おっしゃったのはすごく重要でプログラミングってもしかしたらコンピューターがやれてしまうんじゃなかろうかという風に最近、思っています。最近No Codeプラットホームがすごく流行っているので、プログラミングとコーディングも違うと思うんですけれども、実際にコーディングはもはやコンピューターがやってしまっていると、なので、本当に何を作りたいのか、どういうペインを解決したいのか、そういう風ないわゆる目的に照らし合わせた開発にどんどん変わってくるので、そもそも人々が何を欲しがっているのか、何を解決したいのか思考に変わっていくのではないかと聞きながら思いました。

古川さん▶︎
そうですね、私も数年前Code for Americaのプレゼンテーションで、これからはデザインが非常に重要である。で、デザインはグラフィックデザインではなくて人々をつなぐデザインであり、全体を設計するデザインという風なところで、オードリーさんが先ほど仰ったような対人スキルというものも含まれるのではないかなとは考えています。

オードリーさん▶︎
全ての子どもたちがプログラマーになってほしいとは思っていません。しかし、コンピュテーショナルシンキング(計算論的思考)や物事を抽象化して考えることを学ぶのは重要です。これにより彼らはとても困難な状況や難しい課題に直面したときにそれらをより扱いやすいことに単純化することができるようになります。同様に、人々が様々な異なる立場にあっても、彼らの感情や共感する点、共通する価値を発見し、その上でイノベーションをもって価値あるものを作り出して提供する、そのような事を理想としたデザインシンキングも重要だと思います。

この多面的な視点と思考を伴ったダブルダイヤモンド思考においては、もしあなたがオープンイノベーションに関わっているのであればそのまま進み続けることはできますが、アイデアの拡散をすることは他の新たな繰り返しの始まりとなります。しかし、人々は共通の価値を持っているということと、そしてここにはもう一つ、違いはあれど人々は共通の価値にたどり着くことができるという別の思考メカニズムがあります。この考えは、あなたがデザイナーではなくてもとても重要なことです。私が思うに、コンピュテーショナルシンキングとデザインシンキングはどちらも私たちが日常的なソーシャルイノベーションにおいて使うことができる普遍的な語彙のようなものであり、これらを利用すれば、たとえプログラミングの経験が全くない人であっても、全ての人々がプロジェクトに貢献することができ、さらに共同でプロジェクトに取り組むことで、参加者は新たな物の見方・視点を得るでしょう。この方法はより包摂的であると思います。


古川さん▶︎
では最後の質問です。ネクストジェネレーション、つまり次世代についてちょっとお話を伺いたいと思います 。日本でも多くの高校生や中学生がコロナデータのビジュアライゼーションサイトの開発に関わりました。彼らは今度12月のガブゼロサミットにも参加するのぜひ応援してあげてください。彼らはこのつらい日々の中、シビックテックやソーシャルイノベーションの光だと希望だと私は考えてます。ちょっとユニークな質問ですが、もしオードリーさんが今ティーンエイジャーだったら何をしてると思いますか?また10年後や20年後にこれからの社会の中心になって、そして小さな町でこのインターネットで私たちの対話を見ている若い人たちに、そしてその周りの大人達にメッセージがあればお願いをしたいです 

オードリーさん▶︎
初めてインターネットガバナンスプロジェクトに参加した時、私はメールアドレスしか持っていなかったので、皆さんとそれでコミュニケーションを取っていました。ですが、当時、私がまだ15か16歳だったということはまさか誰も気付いていなかったでしょうね。つまり、インターネットはあなたの年齢を知らない、ということです。
ですから、もし私が今ティーンエイジャーだとしても、今と変わらず内閣の閣僚として働いているでしょうし、もしかしたら最近設立されたオープンガバメントパートナーシップ・ナショナルアクションプラン評議会のメンバーになっているかもしれません。
そして、これは架空の話ではないので良い回答ではないかもしれませんが、オープンガバメントパートナーシップ評議会のメンバーには、本当にティーンエイジャーがいるのです。
今から3年前、彼女がまだ16歳の時に、とても有名な取り組みを先導したのですがそれが理由で評議会に登用されました。台湾ではタピオカティーに使われるプラスチックのストローが、海洋汚染、二酸化炭素排出量増加の原因として問題になっていたのですが、彼女はストローの使用を段階的に禁止する嘆願書を提出しました。彼女は、確か「私は象が好き、象も私が好き」というID名を使っていて、最初に嘆願書が出された時に私は彼女がいくつかはわかりませんでした。この提案は多くの支持を得て、5,000人以上の人を動かしました。私たちはオーガニック素材や他のプラスチック素材、あるいは別のものなど様々なアイデアを使い捨て食器メーカーに提案し、既存のストローを使わなくてもいいようにトライしました。この活動は本当の意味で共創的であり、彼女の貢献はその自発的な協働プラットフォーム、ジョイントプラットフォームが支持された結果に現れています。
現在、彼女はナショナルアクションプランの評議会メンバーとなっていますが、まだ19歳のティーンエイジャーです。私がこの例をお話したのは、皆が何かしらの貢献を伴うソーシャルイノベーションにおいては、ティーンエイジャーや大人、年長者の間に何も違いはないのではないか、ということを伝えたかったからです。
私はレナード・コーエンのこの詩をよく引用するのですが、

「全てのものにはヒビがあり、そして光はそこから射し込んでくる。」

先入観をあまり持たない人は、そのヒビをただの建物の一部としてではなく生命が入り込んでくる何か、として見るでしょう。新鮮な視点を持つことはもちろん大切なことですが、だからといってティーンエイジャーである必要はありません。自分にとって安全で快適な場所から飛び出して、あなたが知らない人と一緒に働いてみてください。そうすると、あっと言う間に彼らはあなたの中にひび割れを見つけ、あなたも彼らの中にひび割れを見つけるでしょう。そして、そこから光が一緒に射し込むのです。これが私のメッセージです。

田中さん▶︎
私も10代の時から仕事をしていてアパッチウェブサーバーのコミッターだった時もティーンネージャーでした。なので10代だから何もできないってこともないし、18歳で今の仕事してるんで、多分もう1回人生やっても、またアパッチにコミットしてるだろうし、仕事してるんだろうと思います。ただ一つだけ思うのは、今のいろいろ作ってきた人脈とか知識をそのまま10代の自分に授けられるならばもっと早くに政府を動かすぐらいの大きなことができたんじゃないかなと思ってるので、今の若い人たち10代、20代の人たちに僕の人脈であるとか関わってきたようなノウハウをもっと伝えていきたいと思っています。これからは若い人が本当に活躍できる社会が将来を伸ばすし、現場の人達が中央集権ではなく分散型でどんどん活動できる社会がよい世界を作ると思っています。今日はありがとうございました。


Live long and prosper  
長寿と繁栄を