未来の都市とビジネスをつくる、アートとテクノロジー -NoMaps2022カンファレンスレポート

Date : 2023/3/31

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近年、「VR(仮想現実)」「AR(拡張現実)」「MR(複合現実)」の総称である「XR」や、替えの利かない暗号資産「NFT」など、最新のテクノロジーがアートに活用されることが増えています。テクノロジーの進化によって、アートはどう変化するのでしょうか。そしてアートの変化によって、社会ではどのようなイノベーションが起こるのでしょうか。

今回のトークセッションさくらインターネット株式会社 Presents アートとテクノロジーで創るソーシャルグッドなビジネスとは?では、アートやテクノロジーを活用し、ソーシャルグッドを目指している方々から現状の取り組みや課題などについてお聞きしました。

さくらインターネット株式会社の代表取締役社長の田中邦裕さんがモデレーターとなり、ゲストには株式会社ARTLOGUEから鈴木大輔さんと森ビル新領域企画部から杉山央さんが登壇しました。

■ 「NoMaps」とは?

クリエイティブな発想や技術を用いて、新しい価値を生み出そうとする人たちの交流の場。北海道を舞台に2016年からスタートした。2022年は「楽しくなけりゃ未来じゃないだろ」というキャッチコピーを掲げ、10月19日から23日までの5日間にわたり開催。地方の”お祭り”を目指し、札幌の中心部のさまざまな場所で、リアルとオンラインを併用した多様なプログラムを行った。公式サイト

「芸術祭のその先」を目指す国際芸術都市大阪

最初にモデレーターの田中さんから、テクノロジーとアートを融合させた表現の可能性についての示唆がありました。

田中「アートの発展のためにも、テクノロジーは必要不可欠な存在になっていますし、アートとテクノロジーが融合した新しい表現がどんどん生まれてきています」

左:さくらインターネット株式会社 田中邦裕さん
右:森ビル新領域企画部 杉山央さん

アートとテクノロジーが融合した表現の可能性について考えるため、アートとテクノロジーの交わる分野で活躍するゲストのお二人をお招きしました。

まず、大阪関西国際芸術祭をプロデュースをしている鈴木さんは、関西で芸術祭を起こすにあたり、文化芸術が東京一極集中となっている現状について語りました。

鈴木「我々は、東京一極集中を問題視しています。大阪は、10万人あたりの美術館数が全国最下位です。去年、文化庁が行ったARTS for the future!という支援事業では、50%を占める約202億円が東京で使われています。

マーケットがなくイベントもなければ、当然仕事もないので、クリエイターたちはみんな東京圏に行ってしまいます。結果、地方都市と関東の人材の差は約4倍にもなっています」

大阪関西国際芸術祭では、東京一極集中の現状を打破するべく様々な試みに挑戦しています。芸術祭自体も「今回の成功」だけを目標とするのではなく、もっと先のゴールを見据えています。

鈴木「芸術祭を一過性のイベントにせず、都市のブランディングとしてアートを生かしていきたいです。都市には常にアート・文化芸術があり、それに関わる仕事や雇用があり、人が定住する。そんな風に発展していくような、国際芸術都市大阪を樹立させましょうという話をしています」

テクノロジーで”街をキャンパスに”

六本木ヒルズをはじめ、東京・港区に多くのビルを所有する森ビルで、デジタルアートミュージアムの企画に携わっていた杉山さんは、テクノロジーを活用して表現活動の場を増やしたいと話します。

杉山「アーティスト側に立って、街自体をキャンパスとして開放し、楽しい街・豊かな生活を作ろうと思って活動してきました」

街全体をキャンパスにしたいと考える背景には、アートなどの表現を披露する場所が街に限られていること、そうした場所の調整がアーティストにとって障壁になっていることへの課題意識がありました。

杉山「表現する場所があって初めて、アーティストの表現が成立するのが現状です。アーティストは本来のクリエイティブに専念すべきなのに、会場との調整を上手くこなせる人しか作品を発表できていません」

杉山さんは表現活動を行う会社と連携することで、このような場所の問題を解消し、街中で気軽にアートに触れられる社会をつくる活動を進めています。

杉山「文化芸術を街の中に増やし、より多くの方との接触機会を増やすことが豊かな生活環境をもたらし、新たなイノベーションを生み出すものだと思っています」

また、イノベーションを加速させるためには、アートと他領域の融合が不可欠だと語ります。

杉山「アートとサイエンスとデザインとエンジニアリングにはそれぞれの役割があって、アートの役割は『時代やパラダイムを進化させること』です。アートと他の領域が混ざり合うことによって、イノベーションがさらに加速すると考えています」

さらに鈴木さんも、イノベーションを起こすためにはアーティスト的な考え方「アートシンキング」が機能すると話します。

鈴木「アートシンキングは、ビジネス上で重視される要素を無視して、根本的な部分から問い直すような思考法です。アーティストは、何の機能もないものを世の中に提示できる人たちです。だからたとえば、本当にその場所に行く必要があるのか? スマホは本当に人を豊かにしているのか? など、根本的な問題に立ち返ることができる。

こういった何かに物申していく考え方は、未来のイノベーションにとって非常に機能していくと思っています」

アートによって都市の価値を高める

イノベーションを起こすためにアートが重要であるという話だけでなく、具体的にアートが都市を成長させる効果についても注目が高まっています。

田中「札幌市は、2013年にUNESCO創造都市ネットワークに加入しました。このようなクリエイティビティを都市に持ち込む活動の効果については、どうお考えでしょうか」

杉山さんは、都市の魅力度の研究などもおこなっている森ビルのレポートから、世界的に見て東京にアートイベントが不足していることに言及しました。

杉山「東京の課題は文化と交流です。都市の魅力を高めるためには、世界に誇る美術館や世界中から人々が集まるアートイベントなどが不可欠だと思っています」

さらに鈴木さんは、アート施設はその国のカルチャーの顔となる、といいます。

鈴木「日本で美術館に行かない人も、海外に行ったら美術館に行く。ルーブル美術館のように、その国の文化を知るために美術館へ行くわけです」

実際、大阪関西国際芸術祭にて、アートイベントが多くの人を集めました。その状況に、会場の担当の方から驚きの声をいただいたそうです。

鈴木「JR大阪駅の横にある、グランフロント大阪という施設でアートフェアを開催したとき、グランフロント大阪の5周年イベントのときよりも賑わっていました。『たくさんのメディアが来た』と、会場のグランフロントさんから驚きの声をいただきました」

アートとテクノロジーで創る、ソーシャルグッドな未来の可能性

たくさんの人を集め、未来へと新たな考え方を生み出していくアート。アートとテクノロジーの掛け合わせで、どんなソーシャルグッドな未来をつくることができるのでしょうか。

鈴木さんは、テクノロジーを活用することにより、もっと多くの人にアートを届けることができると話します。

鈴木「地方に住む人々やハンディキャップを抱える人は、都市部の人々と比べアートに接する機会がなかなかないのが現状です。こういった問題には、テクノロジーの力が非常に有効に働くと考えています」

左:株式会社ARTLOGUE 鈴木大輔さん

また、テクノロジーの発達に関わらず、人が集まる「祭り」はなくならないとも語ります。

鈴木「人と人がリアルに接して集まることはなくならないと考えています。祭りを立ち上げ、それをトリガーとして都市を発展させる。そこにWebなどのテクノロジーを重ね合わせてアクセシビリティを向上させる。そうすれば、まだまだ成長の余地があると思っています」

また、杉山さんはXRなどのテクノロジーにより、物理的な障壁を超えて人と人とがつながる可能性に対して指摘しました。

杉山「都市は、効率的なコミュニケーションができる場所。そこからテクノロジーの力で、デジタルとリアルを重ねることができるようになっていくと考えています。そこにいない人たち同士が、一緒に手をつないで歩けるような時代が来るのではと、今からワクワクしています」

人々が集まるリアルの場だけでなく、離れた場所でもアクセスできるテクノロジーで、未来の都市を切り開いていく。テクノロジーによるアートが街に増え、さまざまな障壁を越えた未来のビジネスの可能性が生まれたトークとなりました。

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