北海道の”食”をどう伝え、どう体験してもらうのか?「“食の宝庫”を生かすマーケティング」会場レポート

Date : 2020/01/20

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漁業・農業・酪農など、国内屈指の一次産業を誇る北海道。しかしその資源を活かし、消費者に魅力を伝えるマーケティング部分には課題が多いとされています。このセッションでは、アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake」を運営する株式会社マクアケ代表取締役社長の中山 亮太郎さん、日高を拠点に北海道の食を多様な形でプロデュースし続ける有限会社マルテンストアー代表取締役で「お料理 あま屋」店主の天野 洋海さん、モデレーターに、野菜ソムリエプロでもあり食に対する知見が豊富なフリーアナウンサーの佐藤 麻美さんをお迎えして、北海道という”食の宝庫”を生かすマーケティングについてお話していただきました。

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バーナーでパフォーマンス、注文を却下!?“美味しいだけじゃない”を追求する「あま屋」の取り組み

北海道の食料自給率は206%と非常に高い水準でありながら、道産品は北海道の外に出荷され加工品として売られるケースが多いという事実があります。つまり、全国的に見て北海道は食材に付加価値をつけられていない地域であるということ。しかし、天野さんは近年の北海道で六次産業が盛んになっていることやインバウンド需要が高まってきていることに触れ、北海道の豊かな食材を生かすための取り組みについて、実例をあげて語りました。



「例えば、ブリって北海道で邪魔者扱いされてた魚だったんですよ。でも、ひだか漁協では船上で活き締め・血抜きをした10kg以上のブリを”はるたちブリ”とブランド化して出荷しているんです。いまでは東京の豊洲市場でも一番の値段をつけています。

『あま屋』でははるたちブリに生ウニをのせて、うに醤油をかけて食べる『炙りブリ丼』というのも出したことがありまして、お客さんの目の前で料理長さんがバーナーで炙るパフォーマンスを行うんです。いまは良い食材を使った美味しい料理が出てくるのが当たり前の時代ですから、何を食べるかだけじゃなくて、どうやって食べるのかまで考えなくちゃいけませんね。」



「私が先週お店にお邪魔したときも天野さんはキッチンから出てきてくださいましたけど、お客さんとのコミュニケーションも頻繁にされてるんですか?」

モデレーターの佐藤アナウンサーが実際にあま屋に行った際のエピソードも、天野さんと「あま屋」の姿勢を象徴するものでした。

「けっこう出ていきますね。お客さんから注文を受けたけど、『今日はそれ食べないほうがいいよ、わざわざ遠くから来たのならこっち食べてください』って言ったり。キッチンにいても、ホールの子にお客さんがどこから来た人なのかとか、どういう感じでオーダーされたのかとか、細かく聞くんですよ。せっかく来てくれたのならきちんとコミュニケーションをとって、お互い納得できるものを食べてほしいっていう気持ちでね。わがままで押し付けがましいだけかもしれませんけど(笑)。」

商品価値とストーリーがセットになることの強み、ブランド維持のスイートスポット。これからの「食」のマーケティングに必要なこととは




中山さんによると、Makuakeをマーケティング手段として活用する飲食店が増えているそうです。オープンする前にMakuakeで応援してくれる顧客を先に集め、リターンとしてお食事券や会員権を売るスタイルの他にも、どんどん刷新されていくユニークな導入事例を紹介しました。

「とあるお寿司屋さんが、まだ客前でお寿司を握ったことのないお弟子さんに経験を積ませたいということで、彼らだけで営業するイベントを立ち上げてMakuakeでチケットを売ったんですよ。そうすると、お店のファンが『自分も弟子を育てるのに一役買う』という感覚で、応援の気持ちで購入するんですね。これはすごい使い方だなと感じましたね!まさに日進月歩でいろんなアイデアが生まれてきているという感じです。

『ここのお店に行ったらどんな体験ができるのか』とか、『この新しい道具を使ったらどんなふうに便利なのか』というイメージが伝わっているかは重要です。でも、それだけじゃなくて、そのベネフィットを創り出すためにどんな汗と涙があったのかというストーリーの部分が両方セットで表現されているプロジェクトは、大体うまくいくんですよね。地方になればなるほど、その表現に苦労されているということはあるので、引き出しのお手伝いをすることもあったりします。」




ベネフィットとストーリーがセットになって、初めてお客さんまで届くマーケティングになる。天野さんは中山さんの言葉に加え、ベネフィットの部分が重要であることを強調しました。

「食べるものならまず、絶対に美味しくないといけないんですよ。商品にかける想いやストーリーがあったとしても、不味かったら話を聞く気にもならないでしょう。美味しい料理を出して、その上で初めて買い付けの話や、食材の話になるんだから。なので、当店の場合は『あま屋』が美味しいのは当たり前という前提があって、じゃあそれをどうやって体験させるのかを考えていますね。」



中山さんはお話のなかで「Feel first, learn later.(まずは感じて、そのあとから調べてみる)」というワードをピックアップしました。オンラインで色々な情報を検索・発信できる現代では、実際にリアルで商品を体験したあと、ネット上で背景にあるストーリーや情報を知るための導線づくりが必要になっています。

「妻がちょうど先々週くらいに函館に行って日高昆布しょうゆを買ってきたんです。これがめちゃめちゃ美味しかった!もっと情報を知りたくて調べてみたんですが、日高昆布を使っている醤油であることくらいしかわからなかった。これは本当にもったいないと思ったんですね。

いまはなんで美味しいのかとか、なんでそんなに美味しいものが他よりも優位に仕入れられるのか、なんでそれを上手に加工できるのかみたいなところを発信するのが重要になってくるし、みんなが調べに行ける時代なんですよね。昔はマスメディアや雑誌に取り上げてもらわないと伝えられなかったけど、いまは無料で情報発信ができる。それをやらないのははっきり言って怠慢だなと思います。」



セッションの最後にモデレーターの佐藤アナウンサーから「スタートアップでこれから変化していくこと、必要になることは何か」と問いかけられた中山さんは、SNS時代の新しい購買行動などにも触れつつ、生み出したブランド価値をどう維持するかについて考えることが必要になる、と語りました。

「以前、福井県鯖江市の眼鏡の会社の経営者に、『中山さん、拡大だけじゃないんだよ。』と教えていただいたんです。
『売上5億円を下回ると従業員を雇えなかったり、下請けさんに仕事を回せない。マイホームも建てられへんねん。だけど売上10億円を超えると、今度は海外で製造しなきゃあかんねん。ここのスイートスポットの中で、どうやってブランドを維持していくかっていうのがとても重要なんだよ。』と。京都なんかではブランドを維持しながら何百年もやっている企業もあるので、そういうところをヒントにしながら、質を高く、長くブランドを維持していけるよう、自社にとって適切な戦略を考える必要があるのかなと思いますね。」

「あま屋」で記憶に残る食体験を提供する天野さんと、Makuakeで多くの事例を見てきた中山さんのクロストーク。食の宝庫・北海道の各地方に眠る、まだ世に知られていない食材や食文化を発信していくためのヒントになるようなセッションでした。この記事を読んで興味を持たれた方は、ぜひ新ひだか町の「あま屋」へ足を運んでみてください!
 

執筆・写真撮影 谷 翔悟
1989年、北海道札幌市生まれ。東京と北海道を往復しながら、人と暮らしにフォーカスした映像やインタビューを制作する。
21世紀の北海道をアーカイブする音声コンテンツ「SUPER SAPPORO BROS」主宰。
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