カンファレンスレポート:DXが紡ぐ再エネエコシステムの未来~再エネ100%を目指す石狩の挑戦

Date : 2022/1/26

Shere :

再エネの「地産地活」による、ローカルエネルギーエコシステム実現の先駆者として。

「自然エネルギーの宝庫」といわれる北海道において、再生可能エネルギーの地域活用を推し進めることは、持続可能な社会形成の一助ともなり、北海道の新たな価値の創出にも繋がります。本セッションでは、再エネ100%供給を実現する産業空間の形成に取り組む石狩市を例に、IT技術の活用によるローカルエネルギーエコシステムの未来について議論しました。

登壇者は、石狩市企画経済部企業連携推進課:課長であり石狩湾新港地域への企業誘致や産業振興の調整役を務めてきた堂屋敷 誠さんと、株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門:シニアマネジャーとして、長い間エネルギーとまちづくりのコンサル業務に従事してきた青山 光彦さん。モデレーターは、石狩市に巨大サーバー拠点「石狩データセンター」を構えるさくらインターネット株式会社取締役ほか複数のIT企業の役員を兼務する前田 章博さんです。


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札幌の隣まちであり北海道の物流・産業振興の拠点。そして再エネ拠点、「石狩市」。

再エネ100%を目指すマチ・石狩市が、これから創りたい世界観はどのようなものなのか。前半は、その未来図と、具体的に検討している事例についての解説が行われました。
堂屋敷さんはまず、石狩市が道都・札幌に隣接し、石狩湾沿い南北約70㎞に渡って横たわる地理的特徴と、1972年からの石狩湾振興地域開発によって発展し、いまや北海道を代表する流通拠点・産業拠点であるという概要を披露。続けて、共通認識の確認として地球温暖化に言及し、Ⅾ・W・ウェルズの著作「地球に住めなくなる日」からの引用や、環境省が配信する「未来の天気予報」を基に、世界に、日本に、北海道に、起こりうる恐ろしい可能性について紹介しました。

石狩市は、すでに風力発電や太陽光発電、バイオマスなど多くの再エネ施設が集まるエリア。堂屋敷さんは「さらなる大規模集積を推し進め、再エネを電力会社の送電系統を通さず地域で活用できる取り組みの検討を進めている」と語り、その直接配電の仕組みによって「約100haすべて再エネ100%エリア」を実現するする「REゾーン」構想を紹介しました。

地域の再エネの在り方としては、木質バイオマス発電(未利用地域森林資源の活用)を軸とするベースロード型電源と、水力・太陽光などによる自然変動型電源の2種を考えており、さらに検討を進めるべきモデルとして、「直接貯蔵型」(蓄電池や水素、アンモニアなど)と「付加ビジネス創出型」(植物工場、モビリティビジネスなど)を解説。「特に重要視しているのが水素」であるといい、自然由来発電で生じた余剰電力が、従来の送電系統が受け付けられずロスされていることに言及。
「もったいないので、水電解で水素を作る取り組みを検討中」であり、関連した洋上ウィンドファーム建設の推進や、太陽光電力を用いるLEDでの植物工場、EVのバッテリーを活用した電力運搬など、新たなビジネスの可能性についての計画が説明されました。 

「集中」から「分散」へ。そしてカーボンネガティブになるタイミングがチャンス。

堂屋敷さんはさらに「都市と地方の在り方」として「集中と分散」について解説。これまで都市には情報が集まり、情報に人が集まって過密化(密)していたが、今ではインターネットなどでどこにいても情報が手に入り、場所が限定されないことで分散化(疎)の社会にシフトしていっており、「電力に関しても同様のことが言える」と。

現在は「大発電所で発電した電気を日本が誇る送配電技術で全国に配電する仕組みですが、今後は地域の賦存エネルギーを活用する再エネ導入によってエネルギーの分散化が進むのではないか。新たな送配電網を構築し、地域の再エネを地域で使うという方向に社会が進んでいく。一方で、再エネ導入には送配電系統の容量の問題があり、地方でたくさん発電しても既存の系統には容量がない。それをふまえて石狩市では地産地活にこだわりたいのです」。
目指すのは、電源と需要家を近接させる近距離送電。ロスをなくし、多くの再エネがある場所で多くの需要を作るという供給の仕組みが、「これからの日本にフィットするのではないかと思う」。加えて「再エネを近くの電力需要家が使い料金を払うことで、エネルギーと資金が地域で循環。富の流出の抑制にもつながる」とも語りました。

石狩市のグリーントランスフォーメーション(GX)については、「GXの推進で、脱炭素だけではなく地域の成長発展も目指す」と述べ、「最終的には北海道全体がカーボンネガティブになっていくはず。一方で(道外の)多くの都市部=電力需要地はカーボンポジティブになり、再エネ導入の拡大と共にカーボン排出量の視点では地域格差が生じていく。
ここに北海道の大きな次のチャンスが。それをつかむために石狩市は少しだけ皆様よりも先駆け、今、暗い闇の中の先の見えない道を走っています」と、覚悟のこもった言葉で結びました。

エネルギーはまちづくりの手段であって目的ではない。重要視すべきは「好循環」。

次いで、長年地域のエネルギー政策・戦略に携わってきた青山さんは、「エネルギーや再エネを目的化しすぎてはだめです」と前置きし、「それらを使ってまちづくりをし、みんなハッピーになる」ための、あくまで「手段」であると断言。まちづくりは「基本的には課題起点で考えるべき」と語り、全国の地方自治体が抱える課題を「脱炭素」「安心・安全な暮らしの確保」「快適な域内外のモビリティ確保」「雇用の創出、産業の振興」の5つに類型化して具体例と共に解説しました。

 その中で用いられたのが、「好循環」というキーワード。「環境面」「経済面」「社会面」などの好循環を創出し、それらが相互に影響し合いながら地域の持続可能性(サスティナビリティ)を向上させることが理想的な地域エネルギー事業の在り方であり、さらに、「エネルギー事業の効率化や事業性の安定・向上と並行して脱炭素を図り、そのために再エネを優遇する仕組みを作ること」で波及効果の好循環が起きると語りました。

「今まではエネルギー事業の好循環と脱炭素の好循環の歯車が回ればよかったが、エネルギーは、まちづくりの課題解決の入口であってゴールではない。最終ゴールは地域課題の解決に向けての公共サービスの展開。この3つの歯車が回っていくことが、あるべき姿」と述べ、自治体・民間共同出資型での取り組みの成功例を5例、紹介しました。

ほかにも「純粋に民間100%の出資例もあり、場合によってはそこに行政が出資する可能性も出てきています。多くはないが、自営線を設置するケースもあり、メリットは非常時にそれを使って電力供給できるためレジリエンスを高められること」と説明。その話を受けて前田さんが石狩市のレジリエンスの観点を質問すると、堂屋敷さんは「基本的な考え方は、国内に行き届いている送配電ネットワークを上手く使いたいイメージです。足りないところに限定的な送配電網を作り、再エネを効率的に供給できるようにする。既存のネットワークのA区間からB区間を一旦切り離して、地震など何かあって電力供給できないときに、その系統を使って供給するような仕組みも検討しています」と答えました。

エネルギー×まちづくりにIT技術が果たす役割は、分析・解析・最適化。

エネルギーや脱炭素とまちづくりとの掛け算にIT技術がどのように役立っていくのか。いよいよそれを前田さんが問うと、まず青山さんが、IT技術には「事業効率化や分析が人間より優れていること」と「データ分析を踏まえて将来予測がより精密にできること」という2つの大きな強みがあると回答。「分析・解析・最適化はエネルギーのマネジメントの観点ではIT技術が欠かせない。どこで電気が生まれてどこで使われるかをうまくマッチングさせる必要があるが、そういう機能としてIT技術は非常に有効」と語り、さらに、「自然由来エネルギーのいつ吹くか(風力)いつ照るか(太陽光)の予測は重要で、そのデータは蓄積するほど精度が高まっていくはず」と分析しました。

続く堂屋敷さんも、予測技術の精度をあげることがDXのメリットだと語り、「天候などの条件を重ね合わせれば、ダイナミックプライシング(料金変動)の導入も可能に。再エネが国内に広まっていくにつれて、自然とDXが進むのではないか」と分析。

前田さんがさらに、今後エネルギー分野にも「中央集権から地方分権というパラダイムシフトが起きるのでしょうか」と質問すると、堂屋敷さんは「すごくそう思います。地域に根ざした地域分散化は今後主流になっていくのでは」と答え、「私たち石狩市は、再エネの近くで事業をやったほうがいいと思ってもらえるような〝蜜〟をたくさん作りたいと思っています。これからの世の中がどういうふうに再エネをとらえ、日本の産業自体がこれから先どんな地域バランスになっていくのかを見極めながら、この蜜をしっかり甘く美味しく育て、皆さんに吸いに来ていただけるようにしたい」と笑いました。

これからは、まちづくりにエネルギーの観点は不可欠。ビジネスチャンスの創出も。

最後の質問は、「再エネとエコシステムの未来について」。
堂屋敷さんは「今まではまるで意識されてきませんでしたが、今後はまちづくりにこそエネルギーの観点を入れて検討すべき」と語り、「エネルギーを賢く上手に使うことが当たり前なんだという尺度を、石狩市が先頭になり作っていければ……」と想いを語りました。さらに「北海道は魅力度の高い人気エリア。さらに一歩踏み込んで、カーボンネガティブという強みをこの先どう生かしていくかが知恵の出しどころ。カーボンネガティブだからこそできることを、オール北海道で一緒に見つけていけたらなと考えています」。

青山さんは、「電気は大規模集中型から分散型にシフトが進み、さらに作る側と使う側が一体のプレーヤーも出てきています。電気事業にいろいろ組み合わせて新たな価値として提供するなど、ビジネスチャンスを見つけていくことは重要。最近はSNSなどで情報が共有しやすい環境が整っているので、民間・行政含め横の繋がりを上手く拡張して、ビジネスとしてのエコシステム、人づくりという観点でのエコシステムを広げて頂けるとよいと思います」。

最後に前田さんが、「(再エネ導入は)官民ともにビジネスチャンスで、市民にも優しい。安定的に利用する仕組みをテクノロジーと知恵で作り、再エネを紡いでいくことができるのかな」と、本セッションを締めくくりました。


執筆:重田サキネ

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