札幌市は2006年、「創造都市さっぽろ」として、文化芸術などの創造性を生かし、産業振興や地域の活性化などのまちづくりを進める宣言を行いました。2013年にユネスコ創造都市ネットワークに登録され、近年、アートイベントやスタートアップ支援まで様々な手法で「創造都市」として精力的に活動しています。NoMapsも「創造都市さっぽろ」を起点に始まり、年に1度の開催ながら、長期スパンで創造的なまちづくりの活動を続けています。
「創造都市さっぽろ」の象徴事業として始まり、次回は2024年1月〜2月に実施される札幌国際芸術祭(略称:SIAF)2024。ディレクター の小川さんは、SIAFとNoMapsを「『札幌の創造エンジン』となるべき存在」だと述べています。
創造エンジンとはどういった存在なのでしょうか? また、SIAFとNoMapsが創造エンジンとなることで、札幌にどのような変化が起こるのでしょうか?
NoMaps2022の2日目に行われたトークセッション「札幌国際芸術祭2024×NoMaps 札幌の創造エンジンが拓く未来」では、創造エンジンが示すもの、その意義、これからのアクションについて紐解いていきます。
ゲストは、SIAF2024ディレクターの小川 秀明さんと、NoMaps総合プロデューサーの五十嵐 慎一郎さん、株式会社D2Garage 代表取締役を務めスタートアップ支援を行っている佐々木 智也さんです。モデレーターは、株式会社トーチ代表、NoMapsの実行委員も務めるさのかずやさんです。
セッションの詳細はこちらです。
■ 「札幌国際芸術祭(SIAF)」とは?
3年に1度、札幌で世界の最新アート作品に出合える、特別なアートイベント。2014年に第1回、2017年に第2回を開催した。札幌市内のさまざま場所で展覧会やパフォーマンスなど、多彩な表現を展開。2020年は中止となったが、特別編としてオンラインプログラムと予定されていた企画の紹介展示を実施した。
■ 「NoMaps」とは?
クリエイティブな発想や技術を用いて、新しい価値を生み出そうとする人たちの交流の場。北海道を舞台に2016年からスタートした。2022年は「楽しくなけりゃ未来じゃないだろ」をキャッチコピーに掲げ、より開かれたカタチでの「お祭り」を目指して開催された。
『創造エンジン』をつくり出す ”札幌国際芸術祭2024”
さの「このトークセッションは、SIAF2024とNoMapsを、札幌の『創造エンジン』にできないか、と小川さんからお話していただいたのがきっかけでした」
SIAF2024の在り方を示すキーワード「3つのC」のひとつに掲げられている、『創造エンジン』という言葉。小川さんはこの言葉の意図について、『エンジン』の比喩が重要だと考えています。
小川「『エンジン』というメタファーは面白くて、動かすのにメンテナンスが必要だし誰かが暖める必要がある。このたとえのように、札幌が創造都市であるためには、様々な参加者と一緒に動かすことが重要だと考えています。そのためにも、SIAFとNoMapsで何ができるか模索したいです」
まずは、小川さんが所属する「アルスエレクトロニカ」、「アルスエレクトロニカ・フューチャーラボ」の説明がありました。
小川さんは、札幌と同じくユネスコ創造都市ネットワークに登録されている、オーストリア・リンツ市の在住。市が運営する機関「アルスエレクトロニカ」で、アーティスト/キュレーター/リサーチャーとして勤務しています。
小川さんいわく、アルスエレクトロニカは「文化インフラ」。インフラとして蛇口をひねると水が出てくることと同じように、市民に文化芸術を提供する機関です。
そのアルスエレクトロニカの中でも、研究者や企業、市民とともに研究開発や実験を行う組織「アルスエレクトロニカ・フューチャーラボ」で、小川さんは共同代表を務めています。
小川「アルスエレクトロニカ・フューチャーラボでは、1979年から『アート/テクノロジー/社会』と呼ばれる哲学を掲げています。テクノロジーが変化していく中で、アートも変化していかなければならない。『アート/テクノロジー/社会』は、そういった変化を貪欲に求める哲学です。
未来をつくり出すためには、こういった哲学を持って実験することが不可欠です」
小川さんは自身のリンツにおける活動から、SIAFの活動を通して、未来をつくる実験を多くの市民に体験してもらいたいと考えています。
小川「SIAF2024では、誰でもアートを介して未来を体験できるようにしたいと考えています。また、街が『いろいろな市民の人達がアイデアを持ち寄って話せる実験の場所』になればと考えています」
出会うはずのなかった人々が集まる「お祭り」をつくる”NoMaps”
札幌の創造エンジンになりうる存在として紹介されたNoMaps。ビジネスの観点から、札幌に新しい取り組みをたくさん生み出すことを目指す取り組みです。
2022年から総合プロデューサーを務める五十嵐さんは、今回のNoMaps2022にて『ハレの日宣言』を掲げました。NoMapsをお祭りと再定義し、市民の人に気軽に参加してもらうことで、新しいアクションに関わる人を増やす意図があるそうです。
五十嵐「青森のねぶた祭など、全国各地には、地方出身の人がどうしても帰りたくなるような熱烈なお祭りがある。札幌は年中イベントが開催されている一方で、そういった熱狂するお祭りがなく、他の街が羨ましいなと思っていました。だからこそ、NoMapsをそんなお祭りにしようと思い、ハレの日宣言を出しました」
五十嵐「都市でお祭りをやることで、立場を超えて同じ方向を向いて、出会うはずのなかった人が出会って新しいものが生まれる。NoMapsをお祭りと表現することで、誰もが遊びに来れる場所になればと考えています」
スタートアップを札幌市の各所とつなぐ”STARTUP CITY SAPPORO”
続いてのゲストはSTARTUP CITY SAPPOROを運営するD2 Garage代表の佐々木さん。佐々木さんはプレオープン時からNoMapsに登壇し、札幌のスタートアップを盛り上げるために様々な事業を展開しています。事業の一環として、スタートアップと行政が連携して札幌で実証実験を行う試みがあります。
現在でも様々な機関と連携していますが、今後は文化芸術分野とも連携していくことで、さらにスタートアップの活動を盛り上げていくことを狙っています。
佐々木「スタートアップは、社会実装的な要素を含んだクリエイターだと考えています。クリエイター同士を引き合わせてこそ新しい化学反応が生まれると思うので、将来的には芸術祭とも連携を取り、スタートアップとアーティストを結びつけて新たなイノベーションをつくり出したいです」
SIAFとNoMapsでつくる「実験できる街」
スタートアップ分野とアート分野の融合によるイノベーション。SIAFとNoMapsで何ができるようになるのでしょうか。
SIAFの小川さんは、アーティストが持つ”未来を予想する力”について語ります。
小川「アーティストが作品を通して発信したメッセージが製品になったり、社会に対する抑止力になったりすることがあります。こういった様子を見て、僕はアーティストのことを『未来市民』と呼ぶことにしました。少し先の未来を見つめ、それを市民に伝える役割のことです」
札幌国際芸術祭(SIAF)2024 ディレクター 小川秀明さん
先ほどの佐々木さんの発言にも触れ、改めてアートとビジネスが繋がることで起こる新たな化学反応について示唆しました。
小川「アーティスト的な側面を持っているスタートアップと、『未来市民』であるアーティスト。この2者が協力することで、アートの発想をビジネスに繋げ、イノベーションを生み出せると考えています」
NoMapsの五十嵐さんは、若者が新しくチャレンジしやすい環境づくりに着目しています。
五十嵐「今の若い世代は、SNSをはじめとした総監視社会に生きているからこそ、他人と違う新しい取り組みにハードルを感じる傾向があるようです。だからこそ、SIAFとNoMapsが手を組んで、新しいことにチャレンジしようと思えるような環境とタイミングをつくりたいです」
それを受けて小川さんは、アートが持つ問いと議論の可能性を提起しました。
小川「現代社会では、様々な価値観が生まれています。新しいことにチャレンジできる環境の中でも、本当に今の考え方でいいのかをオープンに議論する機会も必要だと思います」
SIAFとNoMaps、アートとビジネスが交わることで札幌はどんな街になるのか。豪雪地帯ならではの可能性を小川さんが語ります。
小川「札幌のアドバンテージは、雪などがあることで自然環境と共生していく技術を生み出す土壌があることだと思っています。これを活かせる実験場所を用意して、どんどんイノベーションを生み出せる雰囲気をつくっていきたいです」
また、札幌が創造的な都市であり続けるための、教育の重要性にも言及しました。
小川「札幌はユネスコ創造都市ネットワークに加盟している、メディアアーツシティです。教育体制をつくりリベラルアーツを体得する機会を増やし、次世代の未来を担う人たちを育むことはとても重要です」
NoMapsでも、教育をテーマとした実践的なプログラムを開催しています。
五十嵐「今年、NoMapsでは大通公園で実証実験が開催されます。この実験では基本的に高校生たちが企画をつくっています。このような、次世代を巻き込んだ教育寄りのアプローチを増やし、もっといろいろな大人をごちゃまぜにして、若い世代が、社会にコミットするチャンスをつくっていきたいです」
左:NoMaps総合プロデューサー/株式会社大人代表 五十嵐慎一郎さん
右:NoMaps実行委員/D2Garage代表 佐々木智也さん
最後に、今後札幌で取り組んでいけることについて意見を交わしました。
佐々木さんは、組織の仕組みを進化させることで生まれる可能性について話します。
佐々木「Web3などにあるように、分散型自立組織(DAO)という組織のあり方を考えるのも良いのではないかと思います。NoMapsがDAOを取り込めば、そういった組織体制自体がクリエイティブで先進性のあるものとしてアピールできると考えています」
小川さんは、今日のようなイベントが行われる『ハレの瞬間』だけでなく、日常から札幌を盛り上げることで、新たな可能性が開けることを見出しています。
小川「今後、どういう価値観を持った場所に住むかがとても重要になると考えています。そうなると、日頃からメディアアーツを実践できる街に住みたいと考える人が出てくる可能性もあるのではないでしょうか。だからこそ、SIAFやNoMapsなどの『ハレの瞬間』だけでなく、日々の生活から盛り上げていくことが重要になると感じています」
アーティストやスタートアップだけでなく、行政とも連携して、日常生活にメディアアーツやリベラルアーツを取り入れていく。そうして繰り返し実験をおこなった先に、札幌が創造的な都市として世界から注目を集める未来が待っているかもしれません。