“神秘的だよね”で終わっていた女性の体の話。真のQOLを追求できる時代が今そこに。
女性が抱える健康課題をテクノロジーを用いて解決する分野として、日本でも耳にするようになったFemTech(フェムテック)。
世界では年々市場規模が拡大し、新しいプレイヤーも続々と生まれている現状ながら、遅れをとった日本では今どのようなことが行われているのか。今回はFemTech製品の販売やコンサルティングなどの企業サポートを行う「fermata(フェルマータ)株式会社」CCOの中村寛子さんと、女性下着のプロデュースやエッセイなどを通して女性の体についてオープンな発信を行なっているお笑い芸人バービーさんを招き、FemTech市場の現状と課題を語ってもらいました。
モデレーターは、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社 ローカルチーム マネージャーの服部亮太さんです。
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世界でも日本でも年々伸び続けるFemTech 市場。北米では2025年には経済効果2兆円と推計。
〈FemTech〉という言葉は、FemaleとTechnologyをかけあわせた造語。日本の最前線にいる中村さんが「そもそもFemTechって何?」という基礎情報を解説してくれました。
そもそもはドイツのイブ・ティン氏が自分の月経を管理するために考案したアプリに端を発しています。ティン氏がこのアプリを周りからも「欲しい」と言われ、ビジネスの立ち上げを計画したそうです。でも投資家たちは『生理』『経血』などの言葉をタブー視して、まったく話を聞いてくれなかった。そこでFemTechという言葉を創り、既存のウェルネス産業の中に新たな分野が誕生したかのように見せた。これが2012年頃のことでした」。
現在では、生理、妊娠、更年期など女性特有の健康課題を解決するために開発された、テクノロジーを用いたプロダクト全般を指す言葉となり、さらに「女性の心身にまつわるタブー(固定観念や価値観)を変容するためのムーブメントという面もある」と中村さん。具体的に何が含まれるのかの例として、「吸水ショーツ」「月経カップ」など生理用品の新たな選択肢、月経痛を緩和するデバイス、妊娠可能日数を予測するデバイス、早産を回避するデバイス、加齢や産後の“ゆるみ”を改善するデバイスなどを紹介した後、「これらによって、今まで日本で取られてこなかった女性の健康周りのデータが取られ始め、今後これをどう活かすかという議論が始まっている」と説明しました。
FemTech業界への参入や投資は年々増えており、2017年には世界で48社だったプレイヤーが、20年には484社と実に219%増という伸び率。投資額も、2012年〜2020年で170%の成長を遂げています。日本でも、2019年に50件存在した関連サービスが20年には97件となり、194%に成長。
中村さんはFemTech業界のジャンルをまとめたマーケットマップで7つのカテゴリーを紹介し、「日本でも今年初めて経産省がFemTechにおける経済効果を発表し、2025年の経済効果は2兆円と推計されています」と驚きの数字を発表しました。また、現在アダルト分野に含まれているセクシャル・ウェスネスが、今後FemTechのカテゴリーとして分類されれば「さらに数字は伸びる」と分析しています。
社会で活躍する、「今」を生きる女性のために生まれ、拡大していくFemTech市場。
なぜ今、FemTechが必要なのか。中村さんは、理由の前提に「生涯月経数の変化も関係ある」と解説。出産回数が少ない現代女性の生涯月経数は450〜500回。つまり、体にダメージを受ける回数が多いということ。近年の調査では、1ヶ月で女性が快適に過ごせるのは生理後のわずか10日間との結果が出ており、女性の社会進出が進んだ現状、「働く女性たちが、こういうものが欲しいと望み、その声がだんだん大きくなった結果、今を生きる女性のために誕生した市場だといえます」。
時代の変化に伴って顕在化する女性特有のウェルネス課題は、社会全体の課題。女性の月経関連によって生じる「労働損失」は、推計で年間約5000億円と言われますが、中村さんは「FemTechはそれを改善して社会の生産性をあげるためのものではありません」ときっぱり。見過ごせない実態として数字の把握は必要ですが、FemTechの存在意義はあくまでも女性のQOL向上のため。
「この認識、非常に重要です」と力を込めました。そして「今私たちに見えている課題・需要は氷山の一角」と続け、「痛くて当然、つらくて当たり前が刷り込まれていて、女性自身が自分が何に悩んでいるのか気づけていない。気づけても、解決できるFemTechのような選択肢を知らない。知っても入手方法が分からない。これが課題なんです」。
また、「生理がない性への働きかけ」も重要視しており、「大事なのは『男性も知るべきだ』ではなく、『知っておくといいことありますよ』と、押し付け感なく説明すること。私たち生物学的女性も生物学的男性にどんな悩みがあるのか知らない。今、北米を中心にMenTech産業も生まれていますから、両方がうまく伴走できる世界になるといいなと思います」と、相互理解が理想であることに言及しました。
女性の日々は固定観念との闘い。なんでダメなの? なんで我慢しなきゃいけないの!?
お笑い芸人としての活躍はもちろん、最近では自身の想いを率直にエッセイやYouTubeで発信しているバービーさん。きっかけはアキレス腱を切って入院した後のラジオ出演で、今までにない本音トークが好反響だったことでした。
「私はもともと、芸人たるものジェンダーを語ってはいけないという意識が強かったんですが、もういいかな、と。みんなが面白いと拡散してくれて今があるので、自分からめちゃめちゃ切り開いていった感はないんですが」。
また、YouTubeで生理のことを発信したきっかけは、「生理で困っている人は多いのに、なんでこんなに情報がないんだろうとシンプルに不思議だったから」と語り、「中村さんのお話を聞いて、日本は女性の体が管理されてるというか、女性の体が女性の主体的なものではない、主体性を持ってはいけないと思われているとすごい感じました」と感想を述べました。
それを受けて中村さんは、海外暮らしのときから月経痛軽減のために服用していた低用量ピルのエピソードを披露。日本では避妊薬としてのイメージが強いため、当時の勤め先では「秘密にしなければ」という空気があり、ピルをデスクの上に置き忘れた同僚女性が「コンドームを机の上に置いてるのと一緒だ」と責められるのを聞いてショックを受けたそう。「周りに迷惑をかけている気分になるし、しかも(薬をもらう)病院は夕方までなので昼休みにタクシーを飛ばしたり、有給を使ったり。なんで私がこんな我慢しなきゃいけないんだ!と思ったところからFemTechに関心を持ちました」と教えてくれました。
胸の話すらタブー?自分の体でテンション上がって楽しんで、何が悪いの?
人気下着メーカー、ピーチ・ジョンとのコラボでも話題のバービーさん。先方からのアプローチではなく、バービーさん自ら「デザイン画を描いてプレゼンしに」行ったのだそう。
「日本は(胸の)大きい小さいを隠さなければならないみたいな風潮があるけど、自分の体を鏡で見て、テンションあがってもらえるような素敵な下着を作りたかった。自分の胸にテンションあがる人ばかみたい、な風潮もいやで(笑)。自分の体を愉しんだっていいんじゃない!ってつもりで作りました」。
ブラのワイヤーで脇にできたあざをインスタで公開して大きな反響があった話から、「みんな思ってたんだ!という驚きと、なんで今まで言わなかったの?という驚き、そして日本では胸のことすら言うのを憚る空気が社会にあるんだなと改めてびっくりした」ことを語り、「どうして言えなかったかを紐解くと、大きい小さいをからかわれたり、胸について語るのをはしたないと怒られたりの経験がトラウマとしてずっと残っていると感じた。言えなくなっちゃって生きてるんだなあ、と」。
その流れで中村さんが、乃木坂にあるfermataの実店舗を取材に訪れたアナウンサーが「出産後、尿もれがひどくて」とカメラの前で言ってくれたことがうれしかったと説明。放送翌日から、「自分だけの悩みだと思っていた。どこへ行ったらいいか分からなかった」という声が多数で、メディアを通しての発信も重要だと気づいたそう。モデレーターが「やっぱりどなたかの発信で出会わないと、そこに至れない。お2人はアクセスギャップを埋めている先駆者の方々なんだなと思う」とまとめました。
数字化されたことで、それを言葉にして望んでいいんだ、使っていいんだという勇気になる。
終盤は、中村さんが東京(都市)ではなく地方でビジネスを始めることの難しさ、バービーさんがマチおこしに携わる難しさについて体験と意見を語り、共に壁となるのが根強くその土地にある「価値観や固定観念」である旨の対話を展開しました。「無理に変われというのもおかしな話。ただでさえ、今はコロナ禍の影響で生活の変化に動揺している。ついていくのに精一杯なので、こちらからのアプローチはし続けながらも、ゆっくり少しずつ、価値観が変わるのを待つしかないと思っています」と、バービーさん。
奇しくも日本のジェンダーやFemTechに対する理解の壁の喩えとも思える回答となりました。
そして最後に、2人がそれぞれ結びのコメントを。
中村さんは、「これからもユーザーの皆さんとお話しながら、暮らしやすい、生活しやすい選択肢をお届けし続けたい。私たちが提供するものに対して違和感を感じる部分があれば、ぜひディスカッションしたい。ぜひ皆さんと話したいです」。
バービーさんは、「女性にまつわるものって、 “神秘的”って言葉でふわっとされがちじゃないですか(笑)。でもそれがFemTechによって数字化・データ化されて、しっかり可視化できれば、数字があることによって言い出せることがあると思う、もの凄い画期的。望んでいる人はたくさんいると思うし勇気にもなる。数字を出されると、自分も試してもいいじゃんとなると思うので、どんどんデータを見せつけてもらいたいなと思います」と結んでくれました。
執筆:重田サキネ
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