カンファレンスレポート:このままだと未来の食と環境ってどうなる?~フードロスミュージアムトークセッション

Date : 2021/12/3

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地球温暖化による気候変動は、大雨・洪水などの自然災害だけではなく、農作物の不作や品質の低下、魚の回遊ルート変更による漁業への影響など、一次産業にもさまざまな被害をもたらすと言われています。

一方、フードロス問題も深刻です。世界の78億人の人口のうち約8億人が飢餓状態にある中、世界では食品の約3分の1にあたる年間43億トンもの食糧が捨てられ、日本でも年間600万トンが捨てられていると言われています。これは先進国が毎年360万トンの食糧を発展途上国の飢えている人たちに寄付しているのに対して、その約2倍弱にあたる量を日本人が捨てていることになります。

10月30日の「食品ロス削減の日」にちなんで、第一回フードロスミュージアムが開催されました。本トークセッションでは開催に先立ち、フードロス問題の現状や企業の取り組み、環境問題などを話題に、フードロス意識を上げるためのアイデアや、消費者一人一人ができることを考えました。

ゲストは、札幌市環境政策課でSDGsの普及や気候変動対策に取り組む佐竹輝洋さんと、フードシェアリングサービスを展開する田尻敏憲さん(プラスフード運営責任者)。モデレーターとして、フードロスミュージアムの座長を務める木村健太郎さんに登壇いただきました。

セッション詳細はこちらをご覧ください。

売れ残り食品と消費者のマッチングによりフードロスを削減。フードロス意識の向上も。

田尻敏憲さんは、初めに自身が運営するフードロス削減サービス「プラスフード」について説明。飲食店が投稿した売れ残りの食品を、取りに行きたい消費者とマッチングさせるというサービスです。消費者側は月会費を払うことでサブスク利用でき、例えば月額1078円払うと10回まで使えるという仕組み。札幌近郊で展開し、平均80%程度のマッチング率を誇ります。

自身もプラスフードに登録しているという木村さんは「麺類を取りたいのに、とても人気があってなかなか取れません」と体験談を話しました。「麺類のほか、お弁当やケーキも人気で、20個出品されても30秒で売り切れることもしばしば。」と田尻さん。プラスフードの人気ぶりがうかがえます。

飲食店側のメリットとして「フードロスを減らすことや来店動機になることはもちろん、店での“ついで買い”が発生したり、プラスフードで食べたことをきっかけに、知らなかったメニューのリピーターになったりしています」と田尻さんは語ります。また、消費者側からは「ケーキの切れ端の出品を見て『これぞフードロスの削減ですね』という感想をいただきました」と、フードロス削減に関心をもってもらえた時のエピソードを話しました。

また、プラスフードのポリシーとして「キャンセル」という仕組みがないことも特徴です。「フードロスが発生する一因として『キャンセル』が挙げられます。プラスフードでキャンセルを作ってしまうと、また新たなフードロスを生んでしまうので、キャンセルという仕組みを無くしました」と田尻さんは強調します。

田尻さんは、プラスフードの今後の展望として「もっともっと多くの人に、この取り組みを知ってもらいたいです。また、店同士のつながりを生かして、ある店で大量に余った食材を別の店で新たなメニューとして使うなど、飲食店間の循環も生んでいきたいです」と語りました。

地球温暖化により、自然災害が増え、食べ物を作るのも大変になってくる!

札幌市環境政策課の佐竹さんは、地球温暖化が引き起こすさまざまな人間活動への弊害を解説。地球温暖化により気候が変動し、極端現象が増えて、暑さ・寒さの極端化や大型の洪水・台風の頻度が上がると言われています。これらの現象は気温が上昇するごとにますます深刻化するので、気温上昇を抑えるためにあらゆる努力が必要で、そのうちの一つがフードロスの削減だと語りました。

北海道内の農家に取材を続けてきた木村さんは、今年27日連続の真夏日を記録した北海道での農業について「暑かったせいで作物が育たず、じゃがいもや玉ねぎが大きくならない。そのせいで行き場を失いそうになった野菜があった」という農家の声を教えてくれました。

気候変動は漁業にも影響を及ぼすと佐竹さんは語ります。「魚は水温の上昇に敏感なので、今まで住めていたエリアの水温が上昇することにより、魚が別の場所へ移動してしまうという事態が起きています。ある場所で毎年獲れていた魚が獲れなくなったり、獲れなかった魚が獲れるようになったりしています。」

佐竹さんの解説は、世界の気候変動事情についての話へと続きます。「日本では大雨・洪水などの水害が深刻化していますが、発展途上国などの砂漠地帯では、湖の水が枯れて水不足となり、農業ができなくなる事態も起きています。気候変動は貧困をも引き起こしているのです。」

フードロスを考える上でのメッセージとしては、「食べ物を循環させよう」ということや、「気候変動により食べ物を作るのも大変になってきている」ということだと、木村さんはまとめました。さらに佐竹さんは「気温上昇や雨不足に耐えられる品種の作物も必要になってきます」と気候変動下での農業についても発想を広げました。

フードロスを減らすために消費者一人一人ができることとは?

「フードロスのうち、55%は飲食店などでの食べ残しや小売店・量販店によるものですが、残りの45%は一般消費者から出ています」と木村さん。佐竹さんは「札幌市では年間1人あたり約10kgの食糧を捨ててしまっています。この『1人10kgフードロスを出している』ことについて自分ごと化することが大事です」と語ります。

フードロスを減らすために消費者ができるアイデアについて、「その日食べる分だけ、少しずつ買い物しよう」という呼びかけはこれまでもありましたが、それに加えて「食べ物を選ぶ時に厳選しすぎないこと」も大事だと田尻さんは強調。
例えば、スーパーで「美味しい野菜の見分け方」を押してしまうと、消費者が見た目の良い野菜ばかりを選ぶことに繋がり、見た目の悪い野菜は売れなくなる。結果、規格外の野菜を生んでしまいます。
「実際スーパーに並ぶ野菜は、だいたいが同じ産地だったり、同じ品質だったりするので、どれを選んでも損をすることはあまりないと思って、選びすぎずに買って欲しい」と田尻さんは語りました。

木村さんは「自分が食べている食糧の重量を数値化し把握することが、フードロス削減に効果的だということを、フードロスミュージアムとして伝えたい」と話します。例えば1週間に家族4人で10kg食べているとすれば、買い物が8kgだった時に「2kg足りないから外食しよう」と考えられるし、12kgだった時は「余るからお裾分けしよう」と食べ物を循環させることができます。
このアイデアに対して視聴者からコメントがありました。「セルフレジで(食糧の重量を)表示可能にできたらわかりやすいのでは?」これには一同納得でした。

また、佐竹さんは「飲食店でご飯を100g、150g、200gと表示し選べるようにすれば、少食な人は少ないものを選べることができ、フードロスを削減できそうですね」とアイデアを思いつきました。「少ないご飯を選ぶと50円引きなど安くなる設定にすれば、消費者は節約にもなって良いですよね」と木村さんもコメントしました。

消費者がフードロス削減に向けて行動していくためのキッカケづくりをしています。

佐竹さんが取り組む札幌市のSDGsのプログラムを2つ紹介しました。
1つ目は「気候変動・SDGsアクションLabo」という全11回の連続オンライン講座。「SDGsに向けて何かやりたいけど、何からやればいいか分からない」という人たちが、実際にSDGsの取り組みをするNPOから学びつつ、自分たちで企画を作って実践するプログラムです。10月26日~2022年3月にかけてオンラインで実施します。

「気候変動・SDGsアクションLabo」の詳細はこちら

2つ目は「企業×ユースによるSDGs協働ワークショップ『SDコン』」。SDGsの取り組みをもっと広げていきたい企業と、SDGsに踏み出していきたいユースが、SDGs達成に向けて一緒に考えていこうというオンラインワークショップです。例えば前回は、白い恋人の石屋製菓と、びっくりドンキーを経営するアレフのSDGs担当者にお越しいただき、一緒にできることを考えました。10月から2022年3月まで開催中です。

さらに、2021年10月29日~31日にPivotで開催する「フードロスミュージアム」について座長の木村さんより紹介されました。

入場用にエコバッグが付いていて、その中に規格外野菜を入れて持って帰ってもらうことで、規格外野菜について「なぜ規格外になったのか?」「なぜ行き場を失ったのか?」を学んでもらったり、二次加工をした後にもロスがある場合どうするかについて考えてもらったりするイベントです。「食品ロスはなぜ起きているのだろう?」という所に焦点を当てて紹介しています。また、農家の作物を作る上での苦労・工夫なども展示しているので、農家をより近くに感じたり、野菜の価値を再認識したりすることで、食べ物を捨てづらく思っていただきたいという思いを、木村さんは熱く語りました。

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