カンファレンスレポート:人口減少下の高校存続最前線 ~若者が地域で育ち活躍できる学校システムとは~

Date : 2021/12/6

Shere :

少子化により高校の統廃合が進み、近年では高校が存在しない自治体も増えてきました。さらにコロナ禍の近年では、オンライン授業が一般的となり、通信制高校への進学を希望する生徒も増えたことから、地方高校の存続はさらに厳しいのが現実です。町に高校がなくなると、都心部への若者流出が進み、さらに人口減少が加速する要因となっています。地方高校の存続は、もはや高校だけの問題ではなく、自治体の存続に影響する重要問題です。

このような課題に向き合い、地方の高校存続に向けて、現場で奮闘する2人のローカルプレイヤーがいます。
女満別高校と東藻琴高校が合併して今年度開校した大空高校の初代校長である大辻雄介さん。
そして、名寄高校と名寄産業高校を合併させて1つの高校を作る過程で、今地域を巻き込み模索を続けている黒井理恵さん(名寄市高校魅力化コーディネーター)です。

このお二人に、現場での取り組みや課題をお話しいただきつつ、北海道の地方高校存続などの研究をする篠原岳司さん(北海道大学大学院教育学研究院 准教授)、全道の高校で「カタリ場」のキャリア教育プログラムを展開する今回モデレーターを務める江口 彰さん(特定非営利活動法人いきたす 代表理事)とともに議論しました。

セッション詳細はこちらです。


なお、こちらのトークの全体はYouTubeでもご覧いただけます。

町内2校の“発展的合併”により、主体性を育む新しいコンセプトの高校を新設。

大空高校校長の大辻雄介さんは、大空高校新設の経緯や、大空高校が目指す教育について説明。町立大空高校は、道立女満別高校と町立東藻琴高校が合併して2021年4月に開校したばかりです。女満別町と東藻琴村が合併して大空町になった2006年以降も、両校は併存していましたが、いずれも生徒募集に苦しんでいたそう。タウンミーティングで町民と議論を重ねた結果、“発展的合併”をして町立「大空高校」として再スタートすることになったそうです。

“発展的合併”に際しては、「地域住民が検討委員会を作り、いろいろな地域を巡ってどんな学校がいいのか考え、教員が準備委員会を設立して両校の良い所をどのように新しい学校に詰め込んでいくかを検討しました。」と地域を巻き込んだ学校づくりの様子を語りました。

大空高校のコンセプトは、「飛行機人(ひこうきびと)を育む」こと。「飛行機人というのは、風に乗るグライダーではなく、自分のエンジンで自らの道を切り拓く飛行機のような人。つまり主体性を育むということです。」と大辻さんは語ります。また、学校の取り組みの特徴としては、忙しさを分散させるために、定期テストをなくして代わりに単元テストを実施していることや、主体性を大切にするために、選択科目を増やして自分で時間割をつくるようにしていること、自ら問題を解決する力を育むためにテーマを自ら設定できる探究学習を多く取り入れていること、自ら学ぶ姿勢を育むために、タブレット端末を生徒が自由に使えるようにしたことなどを紹介しました。

またこのような取り組みをしていく中で、生徒募集にも成功し、今年度のオープンキャンパス参加者数が昨年度の2倍以上に増えていることや、町外や道外からも入学希望者が増えていることも教えてくれました。生徒募集に苦しんでいた大空町の2校が“発展的合併”をし、町民を巻き込んだ新しいコンセプトの学校づくりにより、魅力的な高校に生まれ変わっていることを感じさせてくれました。

市民、生徒、高校、行政がみんなで考えて新設校をつくっています。

名寄市高校魅力化コーディネーターの黒井理恵さんは、名寄高校と名寄産業高校を統合して新しい高校をつくる過程の中での現在の取り組みや、そこに至るまでの苦労について話しました。

まず初めに、市民、高校生、教員が集って新設校のコンセプトを考えるワークショップを展開している今の様子について紹介。「どんなことを、どんな風に学ぶか」について話し合ったところ、「自己実現」や「自ら変化する」などのキーワードが出てきたことについては、「みんなで話し合うと(キーワードが)出てくるんだなと改めて感じています」と語りました。

しかし、こういった対話の場を作るにあたっての道のりは平坦ではなかったそう。ボランティアの立場から学校や行政に対して、「みんなで話し合うことが大切」と今日に至るまで言い続けることによって、やっと成立した対話の場だったと黒井さんは打ち明けました。

学校や行政へのアプローチの仕方については、「まずは両校それぞれの魅力を考える有志教員の会議でファシリテーターとして参加しました。さらに、有志の市民を集めて市民サポーターを結成。そして名寄市教育委員会へ掛け合い、高校教員や市民サポーターから代表者を出して高等学校魅力化推進委員会議を開催させてもらいました」と黒井さん。対話の場を作るにあたっての並々ならぬ努力が伺えます。

また「高校の魅力度アップにまず大切なのは、教育の理念やビジョンです」と語る黒井さん。学科や間口、校舎、制服など各論から考えるのではなく、まずは基本方針となる「どんな教育が必要なのか」について考えることの重要性を何度も問いかけました。その結果、新設校のコンセプトを考えるワークショップが実現したのです。

黒井さんの学校や行政など各方面への粘り強い働きかけに校長先生や教育委員会が応え・協働することで、市民や生徒も含めた「みんな」が新設校を一生懸命に考える基盤ができていることが感じられました。

学校づくりが地域住民や生徒に開かれていることに可能性を感じます。

お二人のお話を受けて、地方高校存続などの研究をする篠原岳司さんは、「二つの地域に共通するのは、学校づくり・学校経営が開かれていること。これまでは先生たちが学校を経営・運営するものだと考えられてきましたが、北海道も様々な課題を抱える中で、みんなで新しい未来をつくるための学校づくりを考える時期に来ている。可能性を感じるのは、地域住民を巻き込んでいること、生徒の意志もしっかり加わっていることです」と感想を述べられました。

答えのない問いに対して、大人たちが悩んでいる姿を子供たちに見せられているのがいい。

名寄の市民や高校生、教員のみんなで新設校について考えるワークショップの中で、「答えのない問い」がたくさん出てきたことについて、黒井さんは「答えのないものに対して、大人と高校生が一緒に考える場を作っていますが、高校生に大人たちが悩んで困っている姿を見せられているのがすごくいいと思っています。大人は答えをくれるものではなく、自分たち(高校生)もフラットな条件で考えられるという場を作れていることこそが、今高校教育で求められている『探究』だと思います」と熱く語りました。

地元の大人が魅力的だったら、子供たちは地元に戻ってくるのです。

篠原さんから大辻さん・黒井さんのお二人へ、地域の産業を担う人材づくりについてのビジョンを質問。

大辻さんはこう語りました。「地元の大人たちは高校生に地元へ戻ってきて欲しいと願っていますが、どこで働くかは子供たち自身に決める権利があります。一方で地元の大人が魅力的だったら、子供たちは地元に戻ってくるのです。戻って来いと言うだけではなく、『ここで働きたい』と思わせる背中を見せて欲しいと思っています。地域に戻ることは限定せず、でも地域をフィールドに探究の授業をおこなうことで、地域に憧れる機会は作りたい」

黒井さんはこう話します。「名寄は情報技術科を新設することになりましたが、これからの世界を考えるとどの産業においてもICTの技術が必須だと思います」。

最後に江口さんが「教育問題だけど、教育だけの領域でやるべきではない。今まで教育に関係していなかった人たちが関与して、地域で価値創造するという可能性を感じて欲しいし、そういう高校が出てきていることを知っていただきたいです」と未来への期待を込めました。

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