カンファレンスレポート:beyond〜2020年のその先へ

Date : 2020/11/11

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■beyond〜2020年のその先へ

 本セッションでは、コロナ禍の渦中でいち早く行動を起こし、自らの分野で対策に乗り出したお二人に、今年のNoMapsのテーマでもある「beyond」=「今を越えていく」ための方法や考え方について、お話を聞きました。

 1人目は、コロナ禍の初期段階に、やがて訪れるだろう状況を予見。リスク通知システムを開発し、オープンソースとして無償で公開。北海道におけるコロナ通知システム運用のきっかけをつくった、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社 代表取締役の伊藤博之さん(写真中央)。
 2人目は、北海道内の有志のエンジニアやデザイナーに呼びかけて約80人のコミュニティー「JUST道IT」を結成、そのメンバーによって「北海道 新型コロナウイルスまとめサイト」を発足した、株式会社インフィニットループの森雄大さん(写真右)。
 モデレーターは、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社:ローカルチーム マネージャーの服部 亮太さん(写真左)です。

*開催詳細はこちらをご覧ください。
*また、このトークセッションを含む約20本のセッションはアーカイブ視聴チケット(1,000円税込)の購入で視聴可能です。
 チケットの詳細はこちら(Peatix特設サイト)をご覧ください。



 

札幌の、北海道の、未来を創る、テクノロジーとクリエイターの活用。

 「beyond(これから)を語る前に知っておくべきこと」として、伊藤さんはまず、NoMapsの開催地である「札幌市」や、その札幌がある「北海道」がどういう地であるかを解説しました。



 「札幌は、ユネスコ創造都市ネットワークによって日本で唯一メディア・アーツ都市の認定(2013年)を受けています。例えば大通公園が四季折々のイベントで人と人、人と物をつなぎ、クリエイティビリティを発揮する場として機能しているように、札幌は情報と人を媒介するための都市設計を随所に施した、いわば都市自体がメディア」と伊藤さん。そんなマチから生まれるデータを活用する「北海道オープンデータ推進協議会」を5年前から進めていることを説明し、今回それを活用したかたちで「コロナ通知システム」を開発、無償公開した経緯を語りました。

 北海道については、「食や観光資源が非常に豊富で、しがらみ少ない寛容な社会」などの魅力に満ちている一方、それらにさらなる付加価値をつける力に欠けている点を鋭く指摘。「低付加価値」の改善は北海道経済の発展において重要であり、「その付加価値をつけるのが、クリエイターの役目だと思っています」と断言しました。
 さらに、近年増えつつある「北海道型のスタートアップ・ベンチャー」の例として、ともに帯広にある農業情報設計社ファームノートを「どちらも大地に根付いてるIT企業だから可能であって、東京の会社にはできないスタートアップだと思う」と紹介。ほか、公立はこだて未来大学の取り組みや、大樹町のインターステラテクノロジズ株式会社にもふれ、「先端テクノロジーの活用」「クリエイターの活用」の2本柱が、北海道の課題を解決できると考えていることを語りました。



 伊藤さんは、最後に「未来年表」(生活総研)を示し、20年後に起きうることをいくつか示した上で、「未来を予測する最善の方法は、自らそれを発明することだ」という、PCの父 アラン・ケイの言葉を紹介。「こういうことがビジネスになりそうだ・社会に貢献できそうだ、というものがあれば、できるのを待つのではなく、自分たちで作っていきましょう、というのが僕のメッセージです」と締めくくりました。


 

制約をクリエイティブで解決。北海道にあった、自然なDXへの下地。

 森さんが、「コロナ対策にITを使って何かできないか」との思いをSNSで呼びかけ、道内の有志クリエイターで結成した「JUST道IT」は、「ほぼ初めまして」のメンバーにもかかわらず、みごとに協力し合い、わずか3日ほどで北海道コロナウィルスのまとめサイトを構築。奇跡的な偉業ですが、森さんは「それ以上にJUST道ITそのものが画期的」と語ります。



 これまで、オープンデータの活用を目指す方向性は一緒でも、アプローチや手法が違うためになかなか他のクリエイターと連携できませんでした。それが今回、「バラバラだった活動が1つになったとき、そのパワーが〝えぐいな〟と」感じるくらいすごかったそう。埋れていた天才的な人材との出会いもあり、「北海道のポテンシャル、半端ねえ!と思いました」と笑います。広い北海道で仕事をするクリエイターたちは、すでにリモート仕事に慣れており、さらに新しい人や考えとの出会いを柔軟に受け止める気質も、成功の要因だったようです。



 自社事業でのコロナ対策としては、以前から手がけているDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みをリブランディングし、ショッピング、インターンシップ、会社説明、授業、イベントなど多岐にわたる分野へのヴァーチャル活用を提案したことを説明。「全国的なDX促進は、コロナ禍というマインド(必要性)がきっかけで一気に進んだ」と、森さん。確かにZoomなどは、コロナ以前、一般人で知る人は少ないツールでした。「でも北海道では、広大さや、地続きではないロケーション、雪など他の地方には存在しない制約が多く、リモートの活用など、制約をアイデアや工夫、クリエイティブで解決する文化が以前からあったように思う。北海道には、DXマインドが自然と刷り込まれていたのでは」と興味深い分析を行いました。
 

コロナ禍によって変化したもの、得られたもの。そして未来へ。  

 森さんは、コロナ禍を乗り越えて先(beyond)ヘ進むためには「正しく怖がって、必要以上に気にしないのがキモと思っています。ITを駆使して正しく立ち向かっていきたい」と語り、「北海道のデメリットと思われていたことが、DXによって価値に繋がったのはすごいこと。北海道だからできたこと、はたくさんある。地方にチャンスはなまらある!この変化を楽しみながら、乗り越えましょう」と結びました。

 伊藤さんは、「歴史を見ても終わらなかった疫病はない。終わった後に、どう社会が変わり、その中でどう、仕組みづくりできるかが求められると思う」と語り、これを「機会」ととらえて、今後「社会を効率的に回していくこと」に結びつけるべきだと説明。「スカイプでの電子会議など、今まで敬遠されていたツールが、使うのが当たり前に変わり、効率が上がった。それは(コロナ禍から)得られた部分だと思う」。同様に、コロナ禍によってITに対する一般の人の意識が変化したことが、未来を変えていくはずであり、「そういう未来への準備をする機運が高まることを期待しています」と最後を締めくくりました。

 

執筆:重田サキネ
 

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