カンファレンスレポート:ブロックチェーンを活用した地域の未来 

Date : 2021/01/30

Shere :

新型コロナウイルスの世界的蔓延による大きな環境変化の中で、新たな生活様式へのシフトを余儀なくされている今、私たちはどのようにITを活用し、どのようにこの状況に適応していくべきなのか。本セッションではブロックチェーンなどの先進技術をテーマに、取り残されがちになる「地方」に焦点をあてて議論を進めていきました。

ゲストは、「共創」プロジェクトなどを通じて地域とのWin-Winモデル創造を目指している北海道電力株式会社:常務執行役員・総合研究所長の皆川和志さんと、エネルギー業界向けソリューション「エネLink」やMaaSプラットフォーム事業「ISOU PROJECT」などを手掛けるTIS株式会社:エネルギービジネス事業部エネルギービジネス企画営業部長の砂山広行さん、日本オラクル株式会社:クラウド事業戦略統括本部のビジネス推進本部部長として、ブロックチェーンはじめクラウド全般のビジネス推進のチームリードを担当する大橋雅人さん。モデレーターは、INDETAIL:代表取締役CEOであり、ブロックチェーン啓蒙の講演会を年間30以上行なっている坪井大輔さんです。

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〝新しい技術を使って何ができるのか〟に取り組む4社を、ISOUなどの例で紹介 

まずはそれぞれが自社の取り組みを説明。砂山さんは、同社が環境・社会の課題解決に貢献する企業になるべく多様な取り組みを開始しており、特にエネルギーの地産地消をキーワードに検討していると説明。取り組み例として、2016年の電力自由化に伴い立ち上げたソリューション「エネLink」と、2019年夏の「ISOUプロジェクト」を紹介しました。「ISOUプロジェクト」は、道南の厚沢部町で実証実験が行われた、過疎化の進む自治体が持続可能な社会を実現するための支援プロジェクトです。



ブロックチェーンで作った仮想通貨を使い、車はEV、その電気は地元で発電したものという手法でサービス全体を設計し、「一定の有効性があった」ものの、課題も顕在化。その後、浜松市佐久間町で、厚沢部の例を進化させたかたちでのMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の実証実験を行いました。


続く皆川さんは、地域の人々との共創のためにほくでんグループが持つ顧客基盤、技術力などの強みが有効であり、それらをうまく掛け合わせた相乗効果でトータルエネルギーソリューションを推進し、「広い意味での総合エネルギー企業を目指している」ことを説明。今までは電力会社としての基盤開発がベース領域でしたが、3年前に強化領域を定め、地域課題の解決に貢献するため4つの柱を立てたことを紹介。加えてエネルギーの地産地消にもふれ、種々多様に登場している分散電源をうまく組み合わせて供給していく方針をとり始めていると語りました。


大橋さんは、ブロックチェーンやビッグデータなど「新しい技術を使ってどういうビジネスができ、どうマネタイズできるかを常に考えている」と自己紹介した上で、北海道で関わったビジネスを紹介。サクラマスの陸上養殖へのIoT導入や畜産の人手不足をAIで解決した例、オンライン授業へのコンテンツ配信、SNSのビッグデータを活用した新たな観光サービスの創出、さらにISOUプロジェクトへの参画や、社会の課題解決の専門部隊としてDX推進室を作ったことを紹介しました。


最後にモデレーターの坪井さんが、自社の信条や、ブロックチェーンの普及・啓蒙のための講演会を年30以上こなしていることを紹介。ISOUプロジェクトへの参画や、ドイツの現地法人で手がけている、ガーナの一地域を舞台にブロックチェーンを用いて発電・売電の管理・コントロールを行なっている事業を紹介しました。


 

人口が年4万人以上減少。過疎化の進む北海道に、「可能性」はあるのか。

続くディスカッションでは、「過疎地域の未来とテクノロジーの活用」「DXと過疎、高齢化のギャップ」「ブロックチェーンの活用における地方創生の可能性」「デジタル通貨革命とこれからの日本国」という4テーマが掲げられ、これらを踏まえた上でのランダムな対談がスタート。話の糸口として「北海道の人口が前年より約42000人減。22年連続、全国最多」という記事が提示されると、皆川さんも国土交通省による2010−2050年の北海道の人口増減分布図を提示し、2050年には道北・道東で非居住地化が進むことや、人口減少によるコミュニティ崩壊の危機を指摘。また、マチが分散している広域分散型の特性から顕在化してくる問題に言及し、「大きいのはライフライン。需要が減ると維持が困難になる」と危機感を語りました。

一方で砂山さんは、過疎地域の持つ可能性に言及。「森林や広大な土地を活用して太陽発電やバイオマス発電を行ない、都市部に供給するビジネスで潤うチャンスがある」。しかし課題は、送電網の維持。マイクログリッド化などについて皆川さんは、「自立分散と総合連携のバランスどう取るかが重要」と語り、「できたエネルギーをできたところで消費すれば、余計なルートは不要」と、地産地消の有効性を語りました。しかし「完全な地産地消も成り立ちえない」という課題もあり、「地産地消を進めつつ中央集権のシステムと繋いでいく、互いに支え合うバランスが必要になる」と皆川さん。さらに、地域に既存の物流や経済モデル、サービスなどと組み合わせるエコシステムを構築し、「地域の中を回す仕組みを作り、電気、ガス、熱、太陽光発電・蓄電などをうまくセクターカップリングしていくのも重要」と語りました。

大橋さんは、「北海道は大きく、マチとマチが離れてることを前提で考えねばいけない。自立分散とはいえ、自立させつつゆるく繋がなければ成り立たないが、繋ぐためにはコストがいる。それを業界・企業の枠を越えて解決しないと。パターンやデータの複雑な解析に、うまくAI、IoTとかを使うことになるでしょう」と語りました。

 

Vyvoのヘルスウォッチが成し遂げた、GAFAにもできなかった「衝撃」の成果

ここで坪井さんが、 アメリカのVyvo社が販売する個人向けヘルスウオッチを例に、DXと高齢者の課題を解決するかもしれない明るい事例として紹介。Vyvoは「AI、IoT、クラウド、ブロックチェーン、すべて活用したビジネスモデル。個人のヘルスデータを送ると、それがトークンで返ってくる。日本にもすでに進出しています」。実際に活用している高齢者の映像が紹介され、使い方を楽しげに話し合う姿が流されました。坪井さんは「広める手法がマルチレベルマーケティング!口コミで広げている」ことが驚異的だと語り、「これはGAFAのどこも成し得ず、たどり着けなかったこと」であり「衝撃」であると語りました。


ISOUプロジェクトの際、どんなに簡単な仕組みにしても高齢者に「使えない」と言われた経験を持つ砂山さんの感想は、「うらやましい」。「Vyvoはユニバーサルデザイン的に簡単なのと、インフルエンサーがいるのが素晴らしい」と語り、大橋さんは、「普通〝共有〟はSNSで行われるが、このおじいちゃんおばあちゃんは、それをしゃべることで行なっているのが面白い。完全にデジタルからアナログに抜けている。これからの高齢化社会に向けてのヒントがある気がします」と分析しました。

皆川さんは「これがほんとのDXじゃないか?という気がします。いろんな定義があるが、デジタル、アナログ、ローテクなどをうまく組み合わせながら最終的に新しいエクスペリエンスの世界を作るのがDXだと思う」と語り、坪井さんは「DXは、デジタル技術の進化が人々の生活をより豊かにするというが、〝人々〟の中に誰が入るかは地域によって違う。無視できない高齢者へのリーチが、みんな下手。そこを考えないと、本当の意味でのDXは日本では成り立たない」と語りました。

 

カギは人が創り動かす「コミュニティ」。北海道が世界のモデルになれるか

ラストのテーマは「これからのローカル、グローバルの関係とブロックチェーンの役割」について。
砂山さんは、現在コロナ禍の影響で人も地域も「個」になっており、自分(たち)はこれでやっていくという「個」と、全体のバランスがすごく微妙になっている時代だとコメントし、皆川さんは「今まで経済の合理性では、ほどよく密にすることが基本だったが、ほどよく疎にしたところでサスティナブルな仕組みを作っていくのがこれからなのかと思う。ブロックチェーンのいいところである非中央集権性を生かして、北海道でローカルの課題解決のモデルを作れば、ポストコロナを見据えた新たなグローバルモデルになるかもしれない」と語りました。 

最後に大橋さんが「地域の未来を考えると、自立化していく世界を描いていかないといけない。自立・自由でもあるけれど、ある程度の規律は必要で、緩い連携が重要。地域にとっての最適解を見つけていきたい」と改めて語り、砂山さんは「ITっていろんなことができるようになってきてると改めて思った。一方でレギュレーションやルールを決めないと変な方向に向かう可能性も。そういうことを含めて北海道でモデルを作れれば、他地域や世界に広げられるなと今日、確信しました」。

締めの言葉として坪井さんが、「技術で未来は進んでいく一方で、過疎化、高齢化も進み、広がるギャップを埋めていかなきゃならない。人とシステムが共存共創していくことが、ギャップを埋めていくんだろう。そういうコミュニティを作っていくことが、答えなのかなと思う」とまとめ、本セッションは終了しました。

 
執筆:重田サキネ
 

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