カンファレンスレポート:地方発スタートアップの課題と可能性

Date : 2020/12/06

Shere :

「起業する」と聞くと圧倒的に「舞台は東京」というイメージですが、地方にも、発想と努力とによって起業を果たし、多額の資金調達を行って急成長しているスタートアップ企業が多数存在します。本セッションでは、広島県発の水産業ベンチャーを立ち上げた板倉一智さん(株式会社ウーオ:代表取締役)と、その投資家兼相談役である東京のベンチャーキャピタリスト木村亮介さん (ライフタイムベンチャーズ:代表パートナー)をゲストに招き、地方起業ならではの課題や意外なメリット、資金調達の実態などについてお聞きしました。モデレーターは、北海道のスタートアップビジネスの推進・育成を手がける株式会社POLAR SHORTCUT:代表取締役CEOの大久保徳彦さんです。

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起業家とベンチャーキャピタリストの確かなタッグが、事業をスケールする。

2020年7月、札幌市は内閣府の「スタートアップ・エコシステム推進拠点都市」に選定され、北海道内の起業を支援する拠点となりました。そんな札幌で開催された本セッションは、これから地方での起業を目指す方々にとって大いに参考になる内容となりました。

まず最初に板倉さんからご自身の起業の理由について、故郷・鳥取県で漁業関係者に囲まれて育った中で、水産業のアナログさにずっと課題を感じていたことや、それを先進的テクノロジーによって便利に変えたい想いがあったことを語りました。舞台が広島県になったのは、結婚を機に移り住んだから。「地方は、首都圏に集まる情報や人の面では足りない部分もありますが、何ができて何ができないかを噛み砕いていくと、地方でもできる、と確信。ハンデがあってもそれを解消できる仕組みを持っていれば問題ない。その〝解〟を見つけたので、決意しました」と語ります。


そんな板倉さんの最初の出資者が、広島出身のベンチャーキャピタリスト(以下VC)木村さん。出会いは2016年、とある地方ビジネスコンテストに板倉さんが登壇し、ピッチで語ったミッションとアプローチが強く印象に残り、「すぐに応援したい気持ちに」。いわく、「板倉さんは創業から今まで一度も言うことがブレていない。異様な覇気に包まれている」。一方、板倉さんは「木村さんは経営者の1人というスタンスで一緒に伴走してくれた」と、独りでは詰めきれない状態だった事業構築やチームづくりが、タッグによって次々に具体化したことを語りました。それを受け、モデレーターの大久保さんが「木村さんのような人が加わることで、事業はスケール(拡大・成長)していく」とビジネスパートナーの重要性についてまとめました。

地方でのスタートアップは、経営を支えるリーダー・スタッフの確保が課題。

シードステージ(創業前後の状態)の投資に特化している木村さんは、地方でのスタートアップ相談を受ける中で、起業家が「どこに相談したらいいか分からなかった」と、VCと出会いにくい例や、「VCにどこまで打ち明けて相談していいものか(下に見られたくない)」と、スタンスの取り方に迷う例がある実態を説明。出会いの機会の大事さや、気軽に相談できることの重要さを語りました。

現在、リモートで東京も地方も問題なく支援できる中で、それでも「やりにくい」と感じるのは、ファイナンス支援の際に現地の見知らぬ銀行担当者と交渉せねばならないことと、スタッフに良い人材を見つけたとき、「一緒に面談する見極めサポートに貢献できない」ことだと言います。

その話を受け、大久保さんが「地方ではよく、経営を支えるリーダー・マネージャークラスの人材が見つからないという課題を聞きますが」と質問。しかし木村さんは、「むしろ地方であればこそ、Uターン・Iターンで戻る人々の中で『どうせ働くならスタートアップ企業一択!』と考えている、野心的・情熱的な人材に出会える可能性がある」と回答。実際、板倉さんも現在の経営陣をターン組から迎え入れており、「ナンバー2を得たおかげで役割分担ができ、僕が注力すべきものに注力できて事業成果にコミットしました。互いのストロングポイントを合わせて、今は順調です」と語りました。
 

あえて地方で起業するメリットは? 課題は? やはり、「人」が重要。

地方で起業するメリットについて、木村さんは〝地方で生まれ地方から始まった〟というストーリーの力強さは利点であるといい、ミッションに説得力が与えられると語りました。また、大学や高専がある規模の都市であれば、東京と遜色ないポテンシャル持つ若者が必ずおり、「彼らを東京のメガ・スタートアップ企業と競合することなく確保できることが有利」。しかしデメリットは、それら優秀な人材がどこにいるか、地元コミュニティの情報網がなければ「見つけにくいこと」。

板倉さんも、「今うちに集まってくれている素晴らしいメンバーも、たまたまいい人が来てくれたとしか言えない」と、人材集めが奇跡的である面を語り、「地方で面白い取り組みをしてる会社だという情報」がいいチームメンバーを迎えられるコツだと分析。情報をこまめに発信し、広島で何か検索したときに必ず同社が出てくるようにしているそうです。

大久保さんが「行政やエコシステムに望むことは?」と問うと、「広島は行政がイノベーションに対して前のめりの応援姿勢なので起業しやすい」と前置きした後、一般論としては「行政が起業家のしていることを理解して応援しないと、解像度があがっていかない。その先に何があるか、何が重要か理解して手助けをしないと、机上の理論」と断言。木村さんは、「担当者は、もっと個の力で戦ってほしい。相談した案件を組織に持ち帰るにしても、まず自分の意見を言える人であってほしい」と語り、さらに、「エコシステムを構築する際には大学などを巻き込み、起業するかもしれない若者たちを育てて欲しい。地方には若者を無視する傾向がある。若者をまっすぐに応援していけば、生まれ育った町で起業していく人が増えていくきっかけになるはず」と提言しました。

 

より強いストロング・ポイントを確立し、気持ちを強く持って進むべし。

最後に2人から、後進たちへのアドバイスとエールが語られましたが、板倉さんは再び、地方には欠けた部分もあるがと前置きし、「足りないものは、強いところをより圧倒的なストロング・ポイントにして補うことが重要」と断言。木村さんは、「東京のVCと聞くと身構えがちですが、もっとカジュアルに、遠慮なく、何でも相談を」と語ってくれました。

 そして以下は、実はセッション半ばで語られた会話ですが、締めにこそ相応しいと思いますので、ここで紹介します。
大久保「地方で、目線を高く上げ続ける、モチベーション維持はどのように?」
板倉「大事なのは、何をやりたいか、やるために何を続けなきゃいけないのかということだけ。モチベーションが低下する理由がない。そもそも、周囲や環境のせいでモチベーションが低下するなんて、甘い。気持ちを強く持ってやんなさいと言いたい」。

 
執筆:重田サキネ
 

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