「どこに住んでいても、つくってゆかいに暮らす」ためのウェブメディアの転載記事です。
地域に根ざしている金融機関が、ローカルの未来を共創するためにできることは何なのか──。
地域の経済を担う要の存在・金融機関。人もお金も集まる都会と比べて、ローカルで投資するリスクは高いと言えるでしょう。
それでも地域に根ざした金融機関には、未来を見据えてローカルプレイヤーの背中を押し、価値を共創している人たちがいます。
NoMaps 2020のカンファレンス「ローカルの未来に賭ける金融機関の共創活動」では、先進的な取り組みに注力する金融機関の方々に来ていただきました。
ゲストは、帯広信用金庫の三品幸広さん、しののめ信用金庫の永田啓介さん、日本政策金融公庫の森本淳志さんです。モデレーターは、NoMaps実行委員であり株式会社トーチ代表のさのかずやが務めました。
「金融機関とローカルプレイヤー、お金とローカルの新しい関係が生まれることを信じて」
語られたのは、それぞれの取り組みと課題、そして「未来」を見据える原動力について。セッションの詳細はこちらです。
リスクを引き受け、価値を共創する取り組み
ますは、本カンファレンスを企画したさのかずや(以下、さの)が、ローカルと金融機関の背景を共有しました。
さの「お金を増やすためには投資が必要で、お金があるほうが投資しやすい。例外もありますが、『お金がある場所にお金が集まりやすい』という現実があります。つまりローカルは、東京よりも経済の活性化が難しいと言えるのではないでしょうか」
お金を貸すだけでは従来のビジネスを成立させにくくなっている今、それでも金融機関がリスクを引き受けて新たな活動に注力している理由を、本セッションでひもときます。
さの「今回は3名のゲストの方々にご登壇いただき、ローカルの未来を左右する金融機関がどのような取り組みをしているのかをうかがいます」
1人目は、北海道の帯広信用金庫から、三品幸広さんです。
三品幸広さん(以下、三品)「帯広信用金庫、経営コンサルティング室の三品幸広と申します。今回は、私が担当している『とかち・イノベーション・プログラム』をご紹介させてください。
もともと野村総合研究所が開発したプログラムで、帯広信用金庫が主催しています。北海道・十勝で新たな事業創造を目指し、2015年から毎年続けてきました。参加者は5ヶ月かけて事業のアイデアをつくりこみます」
△ 過去の開催の様子
三品「2020年度で6期目になりまして、通算で約300名の参加者が集まってくれました。札幌や東京からの参加者もいます。5年間で44の事業を発表し、法人で11社、個人事業を含めると通算で15の事業が始まりました」
続いて2人目は、群馬県のしののめ信用金庫から、永田啓介さんです。
永田啓介さん(以下、永田)「しののめ信用金庫に勤務している永田啓介と申します。私が専任職員をしている『まちの編集社』をご紹介させてください。
簡単に言いますと、地域における課題解決や魅力発信のために、地域のプレイヤーとクリエイターをつなぐ取り組みです。企業に対してデザインの観点から提案をしたり、地域の事業者を紹介するWebメディア『つぐひ』の運営をしたりしています」
△ まちの編集社 公式サイト
永田「編集社が組織された背景としては、地域に魅力ある企業やコンテンツが存在していながら、地域の内外に発信しきれていない現状がありました。ここにデザインやクリエイティブの観点を加えることで、地域の価値を高めようとしています」
△ Webメディア「つぐひ」
永田「信用金庫は地域の情報を多く持っていますが、一方でデザインやクリエイティブの専門性が弱いのが現状です。このため、信用金庫が地域のクリエイターと連携しながら、魅力の発信や磨き上げを一緒に取り組んできました」
3人目は、全国に支店がある日本政策金融公庫の森本淳志さんです。
森本淳志さん(以下、森本)「日本政策金融公庫の北見支店で支店長をしております、森本と申します。日本政策金融公庫は、国の機関です。ただし株式会社なので、他の金融機関と同じようにきちんと収支を考えながら事業に取り組む必要があります」
森本「特徴は、全国に152の支店があること。国の機関直轄で152も支店があるのは、日本では日本政策金融公庫だけです。まさに日本の隅々までサポートできる機関として存在しています。
先ほどのお2方から素晴らしいお話がありましたが、一般的には、地域の金融機関がスタートアップの企業に融資をするのは難しいんです。それを補完をするために、日本公庫が各地の事業者に対して創業前から創業後まで伴走支援をしています」
△ 日本政策金融公庫 が主催する「高校生ビジネスプラン・グランプリ」
森本「それから、高校生・高専生のビジネスプランを競う全国規模の大会『高校生ビジネスプラン・グランプリ』を毎年開催しています。私が企画書を作成して2013年にスタートしたプログラムで、第7回は約4,000件の応募があり、400校近くが参加しました。実際に参加者から起業家を多く輩出しています」
新しい価値の共創に、誰もが自分ごとで向き合えるか
取り組みを紹介していただいたところで、まずは最初の問いかけから。「金融機関として地域の未来に投資する活動にどんな課題がありますか?」。森本さんも「私からも聞きたいことがあって」と質問を添えます。
森本「特にプロジェクトの実施を判断する上層部はリスクに対して厳しいと思うのですが、帯広信用金庫さんの『とかち・イノベーション・プログラム』をよくスタートされたなと感心しました。リスクの大きいプロジェクトをどうしてスタートできたのか、三品さんにうかがいたいです」
この質問に対して三品さんは、「実はこのプログラム、すごくお金がかかるんです。他の信用金庫の仲間に聞かれて金額を答えると『それは無理』と言われるくらい」と話します。
三品さんがプログラムの担当に指名されたとき、「こんな金額に見合う成果なんて出せません」と断ろうとしたそうです。
三品「でも、そのときにトップから言われたことがあります。
『プログラムの成果は、ここから生み出される新規事業の数じゃない。まずは人が集まることに意味があるんだ。こういう考えの人がいる、こんなことができる人がいる、とプレイヤーが可視化されれば、何かが始まるだろう。先にお金を出せば、きっと後に返ってくる。それこそが投資なんだ』と。
ですから私の唯一のミッションとして提示されたのは、『集まった人の顔と名前と考えていることを、すべて覚えろ』でした。おかげで担当者として、すごく動きやすかったですね」
投資先は、地域の未来。この前提の上に続いてきたプログラムですが、三品さんは「あえて課題を言うなら」と付け加えます。
三品「『地域』の『未来』に投資する。この定義が人によって違うんですよね。『地域』の場合、自分ごとになるエリアの範囲がそれぞれ異なります。『未来』なんて、なおさらよく分からないじゃないですか。分からないものに投資する決断をできるか。これは大きな課題だと思います」
永田さんは、新しい取り組みに関わる仕事の属人性をいかに下げるかを、課題に挙げました。
永田「なぜ属人性を下げる必要があるかというと、私個人で動いていても当金庫としては不十分だからです。新しい価値を生み出す活動が、当金庫の全職員やエリア全体に広がること。これが最終目標だと考えています。それが実現できれば、『まちの編集社』はなくなってもいいのかなと思いますね」
森本「『永田さんにたまたま出会えた人はラッキーだけれど、他の支店に行って別の担当者に会うと、何の提案もアドバイスもなかった』という状況をつくらないこと。金融機関の通常業務が忙しいなかで、ここは公庫においてもも非常に大きな課題だと感じています」