カンファレンスレポート:宇宙ビジネスのNoMaps〜民間リードの産業創生への挑戦

Date : 2020/12/06

Shere :

NoMapsの人気セッションである「宇宙ビジネス」シリーズ。
世界的に国家主導のイメージが強い宇宙開発分野に、近年ようやくスタートアップや企業参入が進み、民間主導によるイノベーションの流れが活発化しています。本セッションでは、民間発の宇宙ビジネスカンファレンスSPACETIDE:COOの佐藤将史さんがモデレーターを務め、宇宙産業をリードするキーマン3人---インターステラテクノロジズ株式会社:代表取締役社長・稲川貴大さん、株式会社ispace:取締役COO・中村貴裕さん、avatarin株式会社:代表取締役CEO・深堀昂さん---に、お話を聞きました。

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宇宙ビジネスは、いまや40兆円超えの市場規模。宇宙は、すでに身近にある。

かつてSF映画にしかありえないと思っていた世界が、いま着々と現実のものになっていることを、しかもそれらが、ごく数年・数十年後には私たちの日常になっているかもしれないことを実感させてくれた、本セッション。冒頭は、ゲスト3人とモデレーターがそれぞれの自己紹介を兼ねて、取り組んでいる事業を説明しました。

トップバッターの稲川さんは、自社がある北海道・大樹町が地理的にロケット打ち上げに適した場所だという説明と共に、観測ロケットMOMOと超小型衛星打ち上げロケットZEROを紹介。「北海道を拠点に、世界に勝てるロケット産業ビジネスをやろうとしている会社です」と語りました。


中村さんは、「月面に1000人が滞在して1万人が旅行するような経済圏を2040年に創りたい」と「ムーンヴァレー構想」を紹介。月面探査ローバーの開発についてや、22年に月の着陸、23年に探査を計画していること、30年代には水資源プラットフォームを作る計画を紹介。月をめぐる政府・民間の動きが活性化している今が、「潮目だと思う。いいポジションにいると実感しています」と断言します。


3月に大企業ANAを退職し、遠隔操作ロボットを使うビジネスを立ち上げた深堀さんは、コロナ禍で注目されたコンシェルジュロボットや、宇宙ステーション(ISS)で接続テスト中の小型アバターロボットを紹介。「アバターをすべての人の新しい能力にすることで、人類のあらゆる可能性を広げていくことがミッション」と語り、「この、すべての、が大事」と力を込めます。さらに、高性能アバター開発に巨額の賞金を提供する世界的コンペティション「Xプライズ」にふれると、その流れでモデレーターの佐藤さんが、同コンペの恩恵を受けた宇宙ベンチャーが多いことを語り、中村さんも受賞者であると紹介しました。



佐藤さんは、「前人未到の地図のないところに自ら地図を描いていこうとする宇宙ビジネス」がまさにNoMapsのコンセプトに合致していることから、今回はモデレーターを志願。宇宙ビジネスがいまや40兆円超えの市場規模を持つことや、40年代に150兆円超えを見込まれていることを解説。「日本でも宇宙ベンチャーは増えていて、今は50社くらい。これまで宇宙と縁のなかった企業も参入を始めています」。自身のSPACETIDEが、それらの情報を世に発信するため活動していることを語りました。

「せっかく飛び込むなら、全く何もない新しいところでやってみようと思ったんです」

宇宙ビジネスに飛び込んだきっかけは、「イーロン・マスクが民間でのロケット打ち上げに成功し、絶対に政府から民間への流れが来る、伸びる産業だと思ったので」と稲川さん。その先見の明と小型ロケットへの強い興味から、生まれたばかりのインターステラに入社。「せっかく新卒で飛び込むなら、全く何もない新しいところでやってみようと思ったんです。新しいもの生まれる瞬間って、なんかいいですよね」。

もともと惑星科学の研究をしていた中村さんは、「宇宙はサイエンスとして捉えていましたが、X プライズの賞金レースに参加し、ビジネスとしての捉え方もあり得るんだなと。パートナーシップ、スポンサーシップでマネータイズする(収益を上げる)発想ができ、こういうアプローチで行けば成立するんじゃないか?と、具体的なプランが見え始めました」。
深堀さんは、行けないところに行けるアバターという技術に大きな魅力と強みを感じており、「アバターをやるなら宇宙をやらない手はない」と参入。「めっちゃ楽しいですよ。アバターを使って、月面に落書きしたいと思ってます!」と夢(?)を語りました。
 

ゼロベースから勝てる産業を創る=前例がない。投資を得るためには…

もとはゼロベースの、前例の少ない宇宙業界。苦しいときをどう乗り越えたかの問いに、稲川さんはクラウドファンディングの活用をあげました。また、投資エピソードとして「打ち上げ成功後、手のひらを返したように向こうから、一緒にやりましょう!応援してました!という相手が増えて」と苦笑。その経験から、投資を募るための分かりやすいストーリーを学べたそうです。中村さんは、「うちは、まだ見せられるものが何もないとき、プロトタイプのローバーを持って行ってプレゼンしました。きれいな映像やどんな言葉よりも、物があると全然違う」とこちらも苦笑。さらに、2022年のミッション実施までは、「準備のプロセスをオープンにすることで、クラウドファンディングが集まりやすくなる」と考えており、「民間ならではのアプローチです」と語りました。

投資する企業側にいた経験から深堀さんは、「成果を見せて、こういうふうにやりますというのは乗りやすい。社内で決済を通しやすいんでしょう」とコメント。自身も小型アバターに関して、「打ち上がった後は、資金を出したいという話がめちゃ増えました(笑)」。3人とも、やはり何らかのかたちを見せることが大切だとの点が一致しました。
 

パイオニアたちの活躍が、新たなプレイヤーを招き入れる流れを創る。

これから宇宙ビジネス界にジャンプインしようとしている新たなプレイヤーへの言葉は。
「創業当時に比べたら、今はもう資金調達がしやすい状況。いろんな大企業が宇宙に投資の方向に向いているので、めちゃやりやすい。ハードル低いと思いますよ」(稲川さん)。
「そうですね、状況は当時と変わっている。でも、当時も今も言えるのは、やれることは全部やること! 僕も100くらいの企業の社長に手紙を書いて投資を申し込みましたが、時間が取れないのでまたの機会にとメールが来るばかり。あるときは、海外出張で戻りませんと言われたので、その海外出張先まで行きました(笑)」(中村さん)。
深堀さんはANA在籍時から遠隔操作ロボット開発に携わっており、「上層部を口説いて企画を通したからには、何が何でも成功させること。何かしらの成果見せて行かないと簡単に潰されてしまう」と語り、現在ISSと行なっているプロジェクトに関して、「ISSでビジネスをするのは、ルールなど含めてとても大変なことだらけ。今ある条件の中でやり抜くということも重要です」と語ってくれました。
最後に佐藤さんが、「皆さんみたいなパイオニアがいると、宇宙ってこんなに近くにあるんだぞ、こんなことできるんだぞ、と思えます。(皆さんに続く)新しいプレイヤーを招き入れる流れが、もっとできていくといいなと思います」と、未来への期待を込めました。

 
執筆:重田サキネ


 

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