ピンチをチャンスに。安平町とチームラボが挑戦する教育現場の今 NoMapsレポート「震災を超えて 未来へ駆ける学び舎」

Date : 2019/12/03

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このセッションでは、北海道胆振東部地震によって被災した安平町の大きなピンチを大きなチャンスに変えようとする取り組みについて、
2018年4月に安平町 町長に就任した及川秀一郎さん、はやきた子ども園園長であり2019年1月から安平町教育委員会の事務局を担当する井内聖さん、チームラボ株式会社取締役であり札幌出身の堺大輔さん、チームラボアーキテクツ・建築家として活動されている河田将吾さんの4名にご登壇いただき、お話を聞きました。モデレーターは、ICCディレクターのカジタシノブさんです。

セッション詳細はこちら

文末には、このセッションの動画(59分)を公開していますので、ぜひご覧ください。

安平町の被災と未来に繋がる学び舎を

安平町は、新千歳空港から車で約30分ほど、北海道胆振地方にある人口8300人の町です。ディープインパクトを生んだ馬産地として知られています。
2018年9月、北海道胆振東部地震によって震度6強を観測し、全壊93棟、一部損壊を含めると93%以上が被災するという大きな災害がありました。
丘の上に建つ早来(はやきた)中学校の校舎も被災しました。この地域は長期避難指示区域に指定され、今もなお自宅に帰ることが出来ない世帯もあるほど、地震の被害は甚大でした。


再建計画を検討するも、築50年を越え老朽化も進んでいたことから校舎を修繕することは断念。昨年4月の町長選で、及川町長が公約で掲げていた小中一貫教育を、この震災というピンチをチャンスに変える希望ある施策として、デジタル化された小中一体型の学び舎を新設するプロジェクトがスタートしています。

本当の意味での「デジタル化」とは?先進事例として注目される「はやきた子ども園」

安平町にある「はやきた子ども園」は、デジタル化の先進事例として全国的に注目を集める公私連携・幼保連携型認定こども園です。
園長である井内さんは「デジタル化というと、小さい子どもiPad与えてるんだろう、プログラミングやらせてるんだろうと誤解を受けることが良くある」と笑います。デジタル化しているのは教育現場、「完全ペーパーレスの働き方」を推進しています。学校によくある紙での提出物も「100%WEB提出・WEB回答のみ」。
一方で「はやきた子ども園」のデジタルに慣れ親しんでも「小中学校に上がると、また完全アナログに変わってしまうんですよ。先生方の働き方から情報共有も含めて。」
ここを上手く連携していくことで、教員の過重労働や働き方改革にも改善が見込めること、さらには、子どもたち一人一人の個性や特徴を幼児保育から小中学校までシームレスに共有することが出来ると井内さん。

チームラボが考える情報社会と空間設計、そして教育分野への挑戦

チームラボと安平町の出会いは、堺さんと河田さんが「はやきた子ども園」の噂を聞きつけ視察に行ったことがきっかけ。


チームラボは、「チームラボボーダレス」というデジタルアートの展覧会を行うことで知られていますが、デジタルコンテンツの開発から、情報社会によるコミュニケーションのデザイン・設計を請け負う会社でもあります。
「情報社会になって、生活が変わったり、身体が変わったり、人間の行動が変わったりしています」として、人と話すにしても、対面だったものが、電話になり、例えばLINEや各種サービスに変わり、「身体性が変わってきている中でどういった空間が必要なのかということを考えている」と語ります。
アートって、教育ってどうあるべきか、「情報社会という観点で、僕らの生活にどんな空間が必要かを考える仕事をしている」と河田さん。

前述の「チームラボボーダレス」などを手掛ける中で特に大事しているテーマに、「子どもたちが"共創"する空間づくりがある」と河田さん。展覧会やイベントなど短時間・非日常的なものではなく、長期的に子ども達が未来を描き刺激する「共創する場所」をつくっていきたいと考えていた中、「はやきた子ども園」というすごい園があるとの噂を聞きつけ、視察しています。

はやきた子ども園を実際に見て、「根本的にクリエイティブが生まれる場所というのはこういうことなんだなと思っていたし、それが体現されていた。感動した」と言う堺さん。
町が所有する施設である「はやきた子ども園」が、堺さんが驚くような類例のない園になっている理由の1つに安平町の教育への思いと姿勢があることを井内さんが明かします。園庭で馬を飼いたい、邪魔な壁を取り除きたい、オール電化の建物に薪ストーブを…「町の建物だから普通はダメなんですけど、O.Kしてくれるんです(笑)」。

安平町×チームラボが描く、教育の未来と希望

これほど官民が近くて1つになっている自治体はないのでは」と語る井内さん。
震災というきっかけから大きな変革に舵を切るようにも見えますが、及川町長の子ども教育への思想・姿勢や「はやきた子ども園」の存在、様々な前例を作ってきたからこその今のプロジェクトであることを感じます。

新しい学び舎を立ち上げる土台ががっちりと組まれた安平町に、チームラボが加わることで、どんな学校になっていくのでしょうか?
令和4年度の完成を目指しこれから具体的に設計していく中で、これから出来ていく学校のイメージを語ってくれました。


堺さんは、1つのイメージとして、Apple Storeでは個人が持つiPhoneがレジ機能を持つことで、内装や客導線が大幅に変わることを例に「デジタルの良さとは、動的に変えられること。」と、固定化されるアナログがデジタルに変わることでの変化を語ります。確かに、机と椅子があり、超アナログ情報ツールである黒板に向いて座るという教室も、デジタルになると大きく変化しそうです。

河田さんは、情報社会・人生100年と言われる昨今、「自分が学んだことがどう生かされていくかが分からない時代になるときに、学びとはどうある必要があるか」が1つテーマになると言います。道具が変化し、アウトプットも変化する中で、どんな大人になれるのか、未来を描ける環境をつくれたらとイメージを伝えてくれました。

井内さんは、デジタル化のメリットを上げ、今アナログで行っているフローをそのままをデジタルに置き換えるのではなく「思想・発想を変えて、先生方がやっている働き方を見直していったときに初めて”働き方改革”や業務改善が進む」と、学び・教育のデジタル化によって今までは出来なかったことが出来る可能性に期待します。

及川町長は、「震災からの復興の中核事業として勇気と希望がもてる施策」でありながら、さらには今後の移住・定住に繋げる町の政策につながっていく、この新しい学び舎をハブとして未来のまちの姿を語りました。

最後に井内さんが「3年後、4年後見ててください!安平町、とんでもない町になってます!」と力強い言葉で締めくくりました。

大きなピンチを大きなチャンスに変えたい!という熱量溢れる4名のお話にすっかり引き込まれ、一気に安平町が好きになりました。子育ての環境として、北海道内にこんなに素敵な場所が生まれるのかもしれないことは大きな希望です。

ぜひ熱量溢れる動画もご覧ください(59分)。


 

執筆 山岸 奈津子(NoMaps 広報担当)